入院したくても死にかけていても、入院できない 訪問看護師に聞いた在宅療養のリアル

渡辺 陽 渡辺 陽

新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るい、入院したくても入院できない患者が多くいます。兵庫県は今月5日から24日まで「まん延防止等重点措置」が適用され、25日からは緊急事態宣言が発令されていますが、残念ながら増加に歯止めがかかっていない状況です。しかし、私たちは、重症も入院できない人がいると言われても、どこか他人ごとのように思っているのではないでしょうか。神戸市の訪問看護師・藤田愛さんに、在宅療養現場の状況を伺いました。

このままじゃ今夜死ぬかも

藤田さんはある日の夜間、有料道路を乗り継ぎ、見知らぬ土地に住む在宅療養者の訪問看護に向かいました。「せめて入院までの間、訪問してくれる訪問看護ステーションをご存知ないですか」と保健師にすがるように言われて「私が行きます」と答えたといいます。

午後9時に現場に到着。「できることをするしかない」と意を決して、「待たせてごめんね」と声をかけながらドアを開けると、 患者のお母さんが「病院の廊下でもいいですから入院させてください」と手を合わせました。しかし、藤田さんにはどうすることもできませんでした。

患者はまだ30代。咳き込んでいるので窓を全開にしても気が散りそうになりますが、集中して血管を探し、ステロイド入りの点滴をしました。「焼け石に水でもないよりまし。看護師が訪問しただけでも命が見捨てられてないと感じられるので、患者さんは希望が持てるのです」と藤田さんは振り返ります。

患者は、呼吸数54回、酸素吸入7リットル、39度台の発熱が続いていました。大病院で陽性かどうかの検査をして帰宅後、一週間が経っていました。「おいおい、これはこのままじゃ今夜死ぬかも。持病の薬が床に散乱してる…飲めないよね、呼吸数54回じゃ」…思わず心の中で藤田さんはつぶやきます。

   ◇   ◇

藤田さんは「正しく、危機感が伝わる報告をしよう」と思い、保健師に数値と共に「早急な入院治療が必要です、そうでなければ感染症か呼吸不全か心不全かで急死の可能性があります」と伝えました。

訪問を終えての帰路、保健センターから藤田さんに電話が入りました。

「10分後に救急搬送できることになりました!」

病院名を聞くと、重度者の治療も行っている病院でした。患者さんを救えるかもしれない―「ああ、よかった、ありがとうございます」。数分間の保健師との会話。一緒に悲しんだり喜べるのが支えとなると言います。

コロナは孤独とセットになっている

このような症例は氷山の一角だといいます。「どれだけ同じような報告を保健師が聞いているだろう。悲鳴の向こうにまた悲鳴があるのです」と、藤田さんは語気を強めます。

「患者さんの中には、カラオケに行ったなど感染経路が明らかな人もいますが、普段から気をつけていて人と接触するのは電車に乗った時ぐらい。心当たりのない人が増えていると感じています」

「コロナは私たちのすぐそばにいて、ちょっとした気の緩みにつけこんできます。特に変異株は従来のコロナとはパワーが全く違うのです。ちょっとこれぐらいええかな…というのを、せめて緊急事態宣言が発出されている間は止めてください。たとえば、二人以上で外食するのは危ない、一人で」と、訴えます。

続けて「コロナは孤独とセットになっている社会性の病理」だとも言います。「例えばインフルエンザだったら、あんたもなたん?私もと言えますが、コロナの患者さんは誰にも言えません。隠れてひっそりと療養して、完治したら何事もなかったように暮らしたいと思っているのです」

   ◇   ◇

コロナ患者の訪問看護数が100件を超えたという藤田さん。酸素飽和度85%だった患者さんから「酸素とステロイド、抗生剤3日目で、94%に上がった」と電話がありました。「もうあかんかと思ってた患者さん。こんなに会話できる人だったことを初めて知った」と、その電話の後、藤田さんは嬉し泣きしたといいます。

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