プロ野球界のレジェンド・桑田真澄さんの家庭で育ったMattさん。前例のないキャラクター、そして「Mattメイク」とも呼ばれるビジュアルで、もはや“桑田の息子”としての存在を凌駕し、アーティストおよびタレントとし活躍し人気を博しています。
しかし、やはり気になるのは、現在に至るまでのMattさんの生い立ち。少なからず“桑田の息子”としてのプレッシャーはあったであろうことを想像しますが、果たしてどのように育ったのでしょうか。
その生い立ちと、Mattさんの育て方・接し方が「母の目線」で惜しみなく紹介された本『あなたはあなたのままでいい〜子どもの自己肯定感を育む桑田家の子育て〜』(講談社)が刊行されました。
Mattさんの母であり、桑田真澄さんの妻の桑田真紀さんによる著書で「野球ファースト」という特殊な家庭の中でMattさんにどのように接し、育てきたかが惜しみなく綴られています。また、それらの逸話の多くは、単に「Mattさんの生い立ちを知る」ことだけでなく、子育てに役立つ目からウロコなエピソードばかりです。
「野球ファースト」という見えない“物差し”の中で
Mattさんは1994年、桑田家の次男として生まれました。体格・運動能力ともに親譲りで野球選手向きだったこともあり、小学生から野球を始めます。しかし、ことさら野球を嫌がる様子は見せないまでも、やがてMattさんは室内で遊ぶお絵描きなどを好むようになっていきます。
母・真紀さんは本人の意思を尊重し、「野球への『目覚め』は待つしかない」「周囲の期待を背負わせることはさせたくない」といった理由から、Mattさんに野球を無理強いすることはなかったそうです。しかしやがてMattさんにとって、野球を続けるべきかを明確にしなければいけないときが訪れます。
小学6年生のとき、父が運営する中学生野球チームの入団テストを受けるか受けないかするかを決断しないといけないときが来ました。Mattさんは「野球は小学校でやめる」と決めますが、父にはなかなか言い出せなかったそうです。おそらくMattさんは幼心に父の思いを感じ取っていたのでしょう。いよいよ父に「やめる」話をする際には「やらない!」とだけ言い、家のトイレに閉じこもってしまうほどだったそうです。
母・真紀さんによれば、普段は明るいMattさんがこのようにパニックになったことで夫婦とも驚きを隠せなかったようですが、改めて子どもにとって親が持つ“物差し”や期待感は、相当なプレッシャー。それを子どもが断ることは相当な勇気がいることを悟ったそうです。
子どもには“好き”を選択させ、人生を自分で決めさせることで“強さ”が生まれる
やがてMattさんは地元の中学校で吹奏楽部に入部。自己流ではあったそうですが、楽器と触れ合ううちに音楽への興味がどんどん湧いていき、高校・大学ともサックスの演奏によって推薦入学。母・真紀さんは「野球をなしくずしに続けるのではなく、自分の“好き”を選択できて本当に良かった」と回想します。
また、歌手・タレントとしてテレビに出始めた頃のMattさんは前例のないビジュアルからバッシングされることもあったようですが、そこでも押し潰されなかったのは「音楽が好き。音楽で生きていきたい」という自ら選んだ思いがあったからだったようです。
もともと母・真紀さんはMattさんに対して「こうしなさい」と言ったことはなく、かといって過剰な手助けをすることもなかったそうです。そのことでMattさんの独立心が養われ、独学と学校からの指導だけで歌手としてデビューするに至りますが、これらの経緯から「子どもの人生は、誰かに強制されるものではなく、自分で決めるもの。だからこそ“強さ”が生まれる」とも綴っています。
結論を急がすと、子どもは心を閉ざす
もう一つ、母・真紀さんが子育てで心がけていたことがあるそうです。それは「結論を急がない」。大人から見て「それは違う」と思うことだとしても、まずは結論を急かさず否定しないようにしていたそうです。なぜなら頭ごなしに否定をすれば、「どうせ話しても否定される」と心を閉ざしてしまうからとのことです。
仮にそういう話題になった際には、例えば「ママも若い頃ならそう思ったかもしれないけどさ、こういう考えもあるんじゃない?」と結論を急がず、まずは歩みよってみることが大事であるとも綴っています。
子育てはまるで修行。でも、ご褒美が潜んでいるのもまた事実
このほかにも多くのエピソードと「子育て」「子への接し方」の知恵が複数紹介されていますが、どのような経緯で本書の刊行に至ったかを最後に担当編集者の方に話を聞きました。
「これまでメディアではMattさんはお父様の桑田真澄さんとの父子関係が注目されがちでしたが、Mattさんの人格形成に対しては、母親の真紀さんの影響が絶対にあったはずだと考え、書籍のオファーをさせていただきました。
本書では、全体を通して『子どもは別人格だから、親の理想を押し付けない』と伝えています。これからの時代を生き抜く強さ、しなやかさの土台作りのヒントが詰まっていると思います」(担当編集者)
本書は子育て、子どもへの接し方の実用的なヒントがたくさんあるのと合わせて、読むと親自身がふと優しい気持ちになる効果もあるように思いました。小さな子を持つ親世代はもちろんですが、対人関係に答えを見出せない人など、多くの人に読んでほしい一冊です。