営業継続から一転、東京の演芸場がついに休業 「娯楽は本当に不要不急なのか?」寄席芸人たちの心境

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

演芸に何ができるかを一緒に考えてほしい~マグナム小林先生

バイオリン漫談家として活動をされておられるマグナム小林先生は、家に帰ると小学生の娘さんたちの良いお父さん。コロナ禍以前は一家の大黒柱として家族から頼られる存在でした。それが今、経済的に妻へ頼らざるを得ない状態に。家族がいるからこそコロナ禍も耐えられる反面、家族のことが心の負担にもなっておられるのだそう。悲痛な芸人の本音をうかがいました。

――大変な事態にも関わらず、SNS等を見ても寄席芸人から悲痛な声はあまり聞こえてきませんね。

マグナム師:芸人がすごいのは、つらいということを表に出さない点です。出しても引かれるだけで、メリットがないということもありますが。つらいことを出さないから、突然いなくなることもありえます。

――仕事がないことで、社会から求められないと感じる寄席芸人が少なからずいると聞いています。疎外感や孤独を覚え、収入もないことから生活苦…もしかして、命を絶つ方が出るのでしょうか?

マグナム師:そこまでいかなくても、他に仕事を持って活動をしなくなる人は増えています。特にまだ他の仕事もある20代30代は。私のような50歳前後になると他の仕事などなく、芸の世界で生きるしかありません。ただ、他の仕事がメインになってしまうと、芸人が芸人であることをあきらめることにつながります。これにより、自分に失望してしまうことも恐れています。

――寄席芸人が生活に困ると分かっていても、「休業しないとはけしからん」と言う方について、どうお感じですか?

マグナム師:コロナで生活に困窮していない人たちは、僕たちが困窮しているという実感がないかもしれません。世の中そういうものだとは思いますが、下手すると業界全体がなくなる危険性があるというのは知っていただきたいです。

――この記事を読んでくださる方に、メッセージをお願いします。

マグナム師:僕たちを支えてください。金銭的にだけでなく、演芸が社会のどこで役に立つかを一緒に考えていただければと思います。

こういう時に助けてくれるのが落語議連では?~桂文治師匠

GW中に池袋演芸場で、上方落語家を招いた寄席のトリを務められる予定だった桂文治師匠。昨年も同様の寄席が開催予定でしたが、緊急事態宣言で中止に。2度も中止の連絡をしなくてはならなかった桂文治師匠の胸中を思うと、いたたまれません。新幹線チケットの手配やホテルの予約も済んでおられていたそうです。現在のお気持ちをうかがいました。

――昨年に引き続き2度目の演芸場の休業ですが、今の心境は?

文治師:緊急事態宣言の発出でどこもやっていない中、寄席はやっていると喜んでくださっていた方々に申し訳ない気持ちでいっぱいです。

――文治師匠のせいではないのに、そういう気持ちにさせられるものなのですね…。

文治師:私は池袋演芸場上席でトリを務める予定だったんです。年に何度もトリは務めさせてもらえるものではありません。それもGWという良い時期に。責任があります。ですから、お客さんに来ていただけるようハガキを出して割引券も作って、楽しんでいただけるよう色々な噺ができるようネタをさらって準備を重ねてきました。それが全て無駄に…。

――政治家の方が助けてくれることはありませんか?

文治師:ありませんね。落語議連があるそうですが、寄席の中心である昼席でお見かけしたことはありません。真打披露興行の夜席には、お越しになられていたようですが。あれを見て、いつも満員だと思わないでほしいですね。

――現状を知っている政治家が少ないのも問題かもしれない?

文治師:落語議連は、こういう時に手を差し伸べてくれるものではないでしょうか。実際に寄席をご覧になり、国民へ「寄席は大丈夫ですよ」と言っていただきたい。といっても、我々噺家はお上の悪口を言って食べているわけですから、あまり仲良くなってもいけませんがね(笑)。

娯楽は本当に不要不急なのかを考えてほしい

落語芸術協会所属の寄席芸人の方々に、お話をうかがいました。様々な意見があるとお分かりいただいたかと思います。

ただ共通して感じておられるのは、もう自分たちの力ではどうにもならないという点です。元々大儲けしている業界ではなく、ささやかに活動を続けてきた業界です。このささやかさが、魅力でもあり脆さでもあります。

ここで一緒に考えていただきたいのは、寄席をはじめとする娯楽は本当に不要不急なのかということ。笑いや楽しみを社会から排除し、人々の顔から笑顔が消えることがコロナを乗り切るカギになるのでしょうか。

「笑いは社会の潤滑油」といわれるように、笑顔があるだけで心は和み物事はスムーズに進んでいきます。リモートワークの普及により孤立化しやすい昨今、娯楽の社会的な意義について考える方が増えることを祈っています。

もし寄席芸人や演芸場を応援したいと思われた方は、SNSのフォローから始めてみませんか。それだけでも、寄席芸人や演芸場は随分と励まされるはずです。

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