医療ひっ迫はどうしたら解決するのか?
コロナ病床を劇的に増やした他国の事例を見ると、日本との医療制度や、国・自治体の病院への権限の強さの違いなども実感するわけですが、国内の他地域の事例も参考にすると、地域の医療機関が密に連携し、病院間の役割分担をして柔軟に病床を確保していくことが有用と考えられ、ポイントとなる「地域の医療機関の連携」と「リーダーシップ、核となる調整役の存在」が浮かび上がります。
コロナ病床が増えない理由の一つは、上述のように、民間病院での受け入れの少なさがありますが、日本は民間の中小病院が多く、実際、ゾーニング(コロナ患者とそれ以外の患者の区域を分ける)が難しい、人工呼吸器やECMOなどの設備や感染症専門医がいないといったことから、コロナ患者の受け入れができない場合もあります。
感染・クラスター発生のリスクをできるだけ拡散しないようにすること、他の疾病の治療をすることも必要であること等も踏まえれば、多くの病院で少しずつ受け入れるよりも、限られた病院でまとまった数の患者を受け入れる方が、効率的・効果的です。空施設利用や新設工事でコロナ専門の病院・病棟を作る、他の疾病の患者やコロナの回復患者を他の病院で受け入れるなどにより、集約を図ることが有用です。
具体的に、日本や世界の対応事例を見てみます。
埼玉の羽生市では、民間病院が駐車場に、80床のプレハブのコロナ病床を新設しました。
長野県の松本医療圏では、重症度別の受け入れ先やコロナ以外の患者を担当する病院を明確にし、地域全体で通常診療への影響を少なくしました。2020年4月に市が、市立病院のコロナ病床を大幅に増やす方針を決定し、市立病院が一般病床を転換し最大37床を確保、市立病院では対応が困難な重症患者は、国立病院や大学病院などが対応し、民間病院は透析中の患者や中等症患者を受け入れるなどの分担をしています。
東京都墨田区は、地域の医療機関に対して、国の退院基準を満たした患者からの感染の可能性は極めて低いことを周知した上で、回復患者の転院を受け入れる医療機関には1000万円の補助金を支払うことにしました。そして、区から患者の転院を依頼された場合は、原則すべてを受け入れる、という区独自のルールで運用を始めました。
英国では、2021年3月からのロックダウン時に、短期間で国内の医療体制を新型コロナ感染症用にシフトしました。新型コロナ用の病床・ICUの増床、さらに「ナイチンゲール病院」という専用仮設病院が全国に設けられました。(ナイチンゲール病院はあまり使用されなかったということですが・・) 英国で、医療体制を短期間で大きく変えられたのは、国営の医療提供システム(NHS)の下、病院の9割以上が公的病院で国の管轄下にあり、トップダウンで動かせたことが大きいと言われています。
2020年3月、米国ニューヨーク州のクオモ知事は、州内の病院に病床増床の命令を発するとともに、大型展示場に1000床など、州内8か所に臨時病院を設置、米海軍の病院船の使用も政府に要請し、3週間で9万床を確保したとされています。
人口当たり病床数世界一で、感染者数が相対的に少ない日本で、現実に医療ひっ迫が起こっていて、救われるはずの命が救われないのだとすれば、やはりその状況は、関係者一丸となって、解決せねばなりませんし、解決できるはずなのです。
おわりに
中国・武漢での最初の感染確認から1年4か月、当初は未知であった新型コロナウイルス感染症についても、様々なことが分かってきました。
人類の歴史において、感染症のパンデミックは繰り返されてきました。過去のパンデックは、感染の仕組みについての知識向上や公衆衛生の啓蒙活動、新しい治療法やワクチンの開発などにより、終息・収束してきました。
新型コロナについても、今後、ワクチンや治療薬が開発・普及していくこと等によって、着実に感染拡大は抑えられていきます。現時点では引き続き、日常生活において、マスク着用・手指消毒、行動を抑えるといった感染防止策を取ることが、個人と社会を守ることにつながります。
明けない夜はない。
がんばってまいりましょう。
【参考】厚生労働省第30回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年4月14日)/大阪府:新型コロナウイルス感染症関連特設サイト/地域医療情報(日本医師会)/感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第8報)(国立感染症研究所)/都内の変異株の発生割合(東京都健康安全研究センターによる調査)/変異株PCR検査(スクリーニング検査)における陽性判明率(大阪府)/各国人口100万人当たり新規感染者数/これまでの新型コロナワクチン総接種回数/人口100人当たりの新型コロナワクチン(総計)接種状況(Our World in Data)/新型コロナワクチンの製造国の国内供給量と輸出量(Airfinity)