スーパーの店内で繰り返し流れるあの曲、俳優が歌とともにコミカルな踊りを見せるユニークなCM…。県内には思わず口ずさんでしまうほど県民になじみ深くなっている会社ソングがある。だが誕生の経緯や由来は案外と知られていない。新年度、歌に込められた企業の思いに耳を傾けた。
◆「インパクト抜群」
俳優の黒沢年雄さん(77)、作業着姿のお笑いタレント、パンチみつおさん(67)が歌に合わせ、コミカルな踊りを見せる。「オウミ住宅」(滋賀県草津市)のCMは渋い俳優のくだけた姿が視聴者の目を奪った。
CMの源流は2000年。パンチみつおさんが自ら企画を制作会社に持ち込んだ。アイデアは採用され、CMが県内で流れた。ただ最初のCMには黒沢さんは出演していない。02年に意外性を追求し、渋い俳優というミスマッチが加われば「インパクト抜群」と黒沢さんに白羽の矢を立てた。「断られると思ったが、快諾だった。撮影現場でも『中途半端では面白くない』とハイテンションだった」(広報担当)
知名度を高める役割を終えたとして08年に関西ローカルでCMの放送を中止したが、「もう一度みたい」と顧客の声を受け、17年に再開。翌18年にはデジタル化して全く同じシーンを撮り直した。
馬場迫裕営業部長は「どんな思いであのCMを作ったのかとよく聞かれるが、何かの意図や戦略は特にないんです」といい、「結果論だが、住宅地造成のため土地を譲ってもらう所有者や住宅購入を検討する人には安心や信用を与える効果があった」と振り返る。
◆滋賀のスターも紹介
総合スーパー「平和堂」(彦根市)が1977年の創業20年を記念して制作したイメージソング。明るく分かりやすいメロディーが一企業の枠を超えて、幅広い世代の県民に愛されている。
歌詞は地元広告会社と社員が協力して作り、作曲は「カーペンターズ」のバックバンド経験者が担当したという。初代の歌い手はNHK「みんなのうた」でも活躍した葉村エツコさんで、現在は歌手大倉詩乃美さんにバトンタッチしている。
歌はかつて同社のテレビCMやセール時に流していたが「社内でそこまで意識的な運用はしていなかった」という。転機は2002年ごろ、滋賀県野洲市出身の歌手西川貴教さんがラジオ番組で曲を紹介してから。改めて注目を集めたことを契機に「いじめっこ」から「げんきっこ」など歌詞を一部変更した。
現在、大型店アル・プラザや平和堂、食品スーパー「フレンドマート」など計157店舗で1時間に2回定時放送するほか、会員制交流サイト(SNS)でも発信する。
広報担当は「子どもが成長しても歌を懐かしんで歌ってもらえるような長く愛される会社になりたい。歌詞の『はずむ心の お買い物』は、平和堂が理想とする売り場を表現している」。
◆赤ちゃんも泣き止む
県内でげんさん、といえば牛肉―。そんなイメージ作りに、このテーマソングが貢献した。精肉・小売り元三フード(滋賀県大津市)が滋賀や京都、大阪に展開する約30店舗で営業時間中、絶え間なく流し続けている。谷口剛社長(53)は「店先で子どもたちが『げんさんだ』と騒いだり、曲を聴くと赤ちゃんが泣きやんだりするといった声も聞く」と手応えを感じている。
歌は2004年に同社の知名度向上を狙って谷口社長が考案した。誰もが気軽に歌えるように、社長が口ずさんだメロディーを曲に仕立て、歌詞も担当した。曲を繰り返し流すと次第に子どもの心をつかみ、広く知られるようになっていったという。
一方で同社の販売スタイルは歌の緩さと裏腹に硬派だ。肉のパック売りが主流を占める中、対面販売にこだわる。客の要望に応じて肉の分量や料理に応じた部位の提案などきめ細やかで柔軟な接客が可能だからだ。
近年、草津市在住の俳優土平ドンペイさんが踊る「お肉のげんさんダンス」も新たにユーチューブなどで公開している。谷口社長は「ロックや演歌、ポップスなど複数あってもいい」とさらなる曲の進化を模索している。