保護した犬や猫を劣悪な環境で飼育して虐待したとして、今月10日、京都区検に動物愛護法違反の罪で略式起訴、同簡裁から罰金刑を出された京都府八幡市内に住む、動物保護ボランティアの女性(50代)。女性の自宅では受け入れた犬や猫の数が増えすぎて飼育ができなくなる多頭飼育崩壊が起きていたとみられています。近隣住民からの悪臭や騒音といった苦情が寄せられるなど、社会問題化されている多頭飼育崩壊。京都府の女性の場合、多数の動物愛護団体などから行き場を失った犬や猫を女性が引き取っていたことが主な要因だといわれてますが、なぜ女性は保護できる範囲を超えて引き取ってしまったのでしょうか? その理由を探るため、京都府の女性に犬を譲渡した団体のことを知る関東のNPO法人や、女性と交流のあった保護ボランティアグループの方にお話を伺いました。
京都の女性に茨城の動物愛護団体も犬6匹を空輸で譲渡
新聞の報道などによると、女性は京都府の自宅を拠点に25年間ほど前から、殺処分を免れるなどした犬猫を動物愛護団体から引き取り、飼い主となる里親を探すボランティア活動をしていたとのこと。病気や高齢の犬や猫でも受け入れていたことから、ボランティアの間では「神様」とも呼ばれていたそうです。今年6月、預けた犬や猫の様子を確認するために女性の自宅を訪れた動物愛護団体のメンバーからの110番通報で、自宅に犬や猫数十匹を排せつ物や動物の死骸が放置されていた室内で飼育していたことが発覚。11月19日、動物愛護法違反(殺傷、虐待)の疑いで、京都府警に逮捕されました。今月10日には、京都区検に動物愛護法違反の罪で略式起訴、同簡裁から罰金30万円の略式命令を出されました。
1年ほど前、茨城県の動物愛護団体も6匹の犬を京都府の女性に譲渡。いまだ6匹の犬たちがどうなったのか確認されていないといいます。その団体を知るNPO法人「保健所の成犬・猫の譲渡を推進する会」(以下、成犬譲渡会)の小山智子理事長は「渡した団体はその後その子たちがどうしているのか、最後どうなったのかも確認もしていないようです。自分たちがキャパオーバーで預かる場所もないのに保護をして無責任に京都府の女性のような個人の保護活動家に押し付けたボランティア団体の責任も重大だと思います」といい、譲渡側の責任も訴えます。
京都府の女性に6匹の犬たちを譲渡していたとされる茨城県の動物愛護団体。受け渡した6匹の犬は、茨城県動物指導センターに収容されていた犬たちだったといいます。茨城県動物指導センターの犬猫などの引き取り協力をしているNPO法人・成犬譲渡会の小山理事長は「6月に報道されてから、初めて京都府の女性のことを知り、茨城の団体が譲渡していたことも同時に発覚しました。犬はどうなったのか…心配になって団体のブログを見てみると、京都の方に空輸して引き渡したと書いてあったんです。関西空港で、団体のスタッフらしき人と女性が一緒に撮影したとみられる写真も掲載されていました。傍らには犬が入っていると思われるクレートが置いてあり、やはり譲渡していたんだと分かりました」と振り返ります。
さらに「茨城の団体は、6月に発覚してしばらくしてから何もなかったかのように女性に譲渡したとみられる内容のブログを削除していました。まずいと思ったのでしょうか。渡してしまったことを申し訳ないと少しでも思うのであれば、犬たちに手を合わせてわびてほしいです」と話します。
10年ほど前は…熱心な真面目なボランティアだった
一方、10年以上前から京都府の女性とともに保護活動を通じて交流していたという保護ボランティアグループの存在も。女性とはSNS上で知り合ったといいます。
「Aさん(=京都府の女性)とは、お互い犬猫の保護活動ということでつながりを持ちました。普段は犬猫の保護があればどこかのインターやサービスエリアで犬猫の受け渡しなどをしていましたが…10年ほど前はメンバーの自宅でAさんを含めランチ会をしたり、私たちの譲渡会に来てもらったりしたこともありましたね」と同グループのメンバー。京都府の女性について「当時は、とても熱心で真面目なボランティアさんでした。保護し介護を尽くした老犬のことをSNSに日々報告したり、私たちと一緒にレスキューした子に里親さんを見つけてくれたり。女性に頼まれて私たちが引き受ける際には、検査やワクチンといった医療処置を全て済ませた状態で渡してくれました。そんな常識的なボランティアとして活動していた姿も知っています」と振り返ります。
金銭的に苦しかった? 他のボランティア団体に保護した犬猫を丸投げ
しかし、少しずつ態度や行動が変化してきたという京都府の女性。メンバーは「変わってきたのは4、5年ほど前だったかと思います。それまではAさん自身が車で保護した犬猫を里親さんのところに届けてくれたり、里親さんの自宅訪問をしてくれたり、積極的に動いてくれていたのですが…私たちに『車がダメになった』『次の車が買えない』などと言うようになったんです。仕事も変えたと聞いていたのですが、もしかすると転職して収入が減ってしまって金銭的に苦しくなっていたのかもしれません」。
足となる車がなくなってからも保護活動を続けていた女性は、保護ボランティアグループに「(保護した犬や猫を)引き取ってほしいから、取りに来て」と頻繁に頼むようになったとのこと。さらに、保護した犬猫を医療処置やトリミングなどを一切せずにそのまま丸投げした形で同グループに引き渡すようになったといいます。
「神様」と呼ばれるようになってから、徐々に変わってきたAさん
「以前のAさんの行動とは打って変わって、何も処置を施さないまま犬猫を私たちに引き渡すようになったんです。Aさん個人のSNS上には『10頭レスキューしました』『無事全部解決しました』みたいなことが書かれていて、『また助けてくれてありがとう!』『すごい!』『イイね!』なんて称賛されていて…驚きました。そのうちの何匹かを私たちが引き受けているのにと思ったり。私たちのグループに渡しましたと言ってほしいわけじゃなかったですが。『自分が全部解決した』ようなことが書かれていることにとても違和感がありました」というメンバー。
「Aさんは皮肉ですが『神様』なんて呼ばれるようになってから、徐々に変わってきてしまったような気がします。グループ内ではAさんとは関わらない方がいいという意見もありましたが、犬猫には罪がないんだから空きがあるなら引き受けようかと。そのせめぎ合いが2年ほど続いたんです。最終的には(Aさんが私たちに丸投げしてくるのは)『やっぱり、おかしいよね』という結論となり、2019年1月に3匹の犬を引き受けたのを最後にAさんからの依頼を断るようになりました」と話します。
動物の多頭飼育崩壊を招く根本は「見捨てる人間がいるから」
多数の団体から犬猫を引き取って多頭飼育崩壊を起こしてしまったとみられる京都府の女性。かつての真面目なボランティアの顔を知る、保護ボランティアグループのメンバーは、こう訴えます。
「今回の事件は、Aさん本人の無責任な行動が1番悪いのは確かです。同時に、女性に犬猫を預けたボランティア団体にも責任はあるかと思います。しかし、このような事態を招いた根本は、年を取ったから…病気になったから…飼えなくなったから…と捨てる人間がいるから、そして、商品価値のない犬猫を処分しようとするペット産業が存在するからだと思います。だから、私たちボランティアは必死で保護をしているのです。こうした犬猫が巡り巡ってAさんの自宅で山積みになって死んでいたのです」。
"第2のAさん"を出さないために…保護できる範囲を把握すること
さらに、続けて「私たちグループは女性が保護したことになっていた犬を引き受けて、譲渡していました。私たちがもう少しキャパがあったら、あの山積みだった子から、あと少し救えた子もいたのに…と、今は申し訳ない思いでいっぱいです。周りにはAさんと同じようなことになりそうなボランティアがいます。例えば、1匹を保護して里親に送り出すまでケアにかかる時間も手間も費用もかかるのに、1人で多数の犬猫を引き受けるのは大丈夫なものかと…。そういう方々の多くは、『私が何とかしなければこの子たちは死んでしまう』という思い込みなどから、自分のできる範囲を超えても保護をしようとしてしまうのです。私たちも自戒の念を込めて、あらためて保護できるキャパをお互いに把握しながら活動していかなければと思いました。"第2のAさん"を出さないためにも」。
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※NPO法人「保健所の成犬・猫の譲渡を推進する会」(成犬譲渡会):神奈川、東京、茨城の動物愛護センターなどから殺処分される犬猫の保護活動に取り組むNPO団体。