秋田犬と聞いて、どのような姿を思い浮かべるでしょうか。がっしりとした体格に、くるりと巻いた尻尾、そしてもふもふの被毛。秋田県原産の日本犬で、国の天然記念物に指定されている日本犬種の中で、唯一の大型犬でもあります。
見た目のたくましさだけでなく、忠実で賢く、愛情深い性格でも知られる秋田犬。飼い主の死後も約10年間、渋谷駅で主人の帰りを待ち続けた「忠犬ハチ公」の物語に登場する犬種として、今もなお多くの人に愛されています。
そんな秋田犬の魅力を改めて実感させる出来事が、Xで大きな注目を集めました。Xユーザー・秋田犬あさひ akitainu asahiさん(@AkitainuAsahi)は、大切な家族である「あさひ」くん(2歳・男の子)との散歩中に起きた、あるハプニングを投稿しています。
「先日、散歩道で懐中電灯を落としたら、フタが外れてバラバラ乾電池が坂道に転がって闇夜に消えた。真っ暗なのでもういいやという気持ちでいたら、あさひが『こっちにあるよ』と1個1個すべて探してくれて、正直、びっくりしました。『おまえ困ってるのか?』と気づいて、今日もひっそりそばに寄り添う秋田犬は、最高のbuddy」
投稿に添えられていたのは、落ち着いた表情で飼い主さんをじっと見つめるあさひくんの姿。静かに寄り添うその姿には、凛としたかっこよさがにじみ出ています。この投稿は3万件を超える“いいね”を獲得。あさひくんの人柄(犬柄)と、飼い主さんとの深い絆に心を打たれた人々から、多くの感動の声が寄せられました。詳しいお話を伺いました。
「困ってる?」 秋田犬が見せた散歩中の一幕
ーー当時の状況について教えてください。
「夜中の坂道で、単1の乾電池が4個入った大きなライトを持って散歩に出かけました。父が入院していることや、最近家族が購入した家のさまざまな準備が重なり、私自身が少し疲れ気味だったんです。ぼんやり歩いていたのか、ライトを落としてしまって。拾い上げると、乾電池が坂道を転げ落ち、すべてなくなっていることに気づきました。住宅地とはいえ田舎なので真っ暗で、乾電池の行方などまったく分からず、その時は何個入っていたのかさえ分からなくなってしまい、『あ〜あ』という気持ちで途方に暮れていました。
すると、いちばん近くにあった最初の1個をあさひが見つけて、こちらを振り返り、『ほら、ここにある』というような顔をして3回吠えたんです。実は、あさひが生後5カ月くらいの頃、警察犬訓練所に通っていました。災害救助の際、瓦礫に埋まった人を見つけたら3回咆哮するという訓練を受けていたんです。このときは、捜索の対象が人から“物”に変わりましたが、飼い主が困っていること、困っている理由がライトから抜けた乾電池を探せないことだと理解したように感じました。これまで受けた訓練を応用して探してくれたのだと思います。
最初の1個を見つけたとき、私が喜んだことが伝わったようで、そのあとすぐに全部探してくれました。あさひは仕草や行動で喜びを表現するタイプではありません。和犬だからなのか、日本人と気質が似ている気もします。このときも、心の中で『良かったな』と思っているかのように、淡々とした表情をしていたのがとても印象的でした」
ーーあさひくんの行動について、どのような感想を持ちましたか。
「何ともいえない感慨深さがありました。私は幼少期から犬が大好きで、これまでさまざまな犬種の子と暮らしてきましたが、和犬と暮らすのはあさひが初めてです。海外で暮らしていた頃、ヘレン・ケラーのある言葉をよく思い出しました。かわいがっていた秋田犬を亡くしたヘレン・ケラーが、『生涯でこれ以上の飼い主思いの犬に出会うことはないだろう』という言葉を残しているんです。帰国したら秋田犬を迎えようと、ずっと思っていました。
実際にあさひと暮らし始めると、飼い主に対して強烈な主従関係を築く、素晴らしい犬だと実感しました。乾電池をスムーズに探せたのは災害救助の訓練を受けていたからだと思いますが、それだけでなく、困っている飼い主を助けようとする気持ちも確かに感じられました。その後の振る舞いも含めて、和犬らしさを強く感じた出来事でした」
ーーこのあと、どうなったのでしょうか。
「半径10メートルほどの範囲に散らばっていた乾電池を、1分以内にすべて見つけてくれました。ニオイで探したというより、犬には昼間のように乾電池が見えているようです」
ーーあさひくんは、どんな性格ですか。
「いつも淡々としています。褒めたあとも誇らしげではありますが、粛々と落ち着いていて、子犬の頃から何があってもあまり動じません。一方で、陽気で人懐こく、甘えん坊な一面もあります。飼い主の言うことにしか応じない忠実さは、まさに秋田犬らしいところですね。温厚で勇敢で、危ないと感じるとサッと前に出て、飼い主を守る体勢に入るので、日々感動しています。
言いつけもよく守りますが、教えたからできるというより、空気を読むのがとても上手なんです。帰宅すると出迎えてくれますが、私が疲れていると察すると、スッと距離を取ってくれます。一緒に暮らしているセキセイインコを放鳥するときも、自分が邪魔にならないようにと考えているのか、すぐに別室へ行ったりします。病院でも自ら診察台に乗り、おとなしく診察を受けてくれます。
まわりの人が何を求めているのかをよく観察し、自分で判断して行動しているように感じます。パピートレーニングやノーズワーク、災害救助犬の訓練など、秋田犬のオスとして周囲に迷惑をかけないよう力を入れてきましたが、ここまで良い子に育ったいちばんの要因は、近所の方々に恵まれ、大切にされながら暮らしてきたからだと思います。その中で、お年寄りの方や体調の悪い方、犬や猫、鳥などに出会い、自分なりに『どうすべきか』を考えてきたのではないでしょうか」
飼い主さんは最後に、「秋田犬の数が激減しているので、少しでも関心を持ってもらえたら、あさひも喜ぶと思います」と話してくれました。投稿には、あさひくんの行動を称える声が次々と寄せられています。
「いい子だなぁ」
「後光が射してる」
「風格、品格がお顔に出てる」
「なんてお利口さんなんでしょ」
「素晴らしい子ですね。心強い」
「抱きしめたい犬ナンバーワンです」
「最高のbuddyですね~♡ その優しさが顔に出ています」
「足長い…かわゆい。そして賢い。素晴らしいバディですね」
「モテ男の顔してる。自覚なく乙女心をかっさらっていくタイプ」
「師匠と呼ばせてください! 困ってたら俺に任せろよな、は男前ですね」
「バラバラな乾電池が必要なんだと理解してるんですね。賢いなぁ〜〜、惚れますね」
「すごくないですか…!! イケワンが過ぎる!! “いいね”、心の中で30連打しました」