ブリティッシュショートヘアの猫店長が出迎えてくれる窯元 猫の箸置きに込めた思い

うちの福招きねこ〜西日本編〜

西松 宏 西松 宏

 それまで猫をモチーフにした陶器は作ったことがなかったのですが、商品として初めて作ったのは、今も特に猫好きの方々の間で親しまれている「黒猫の箸置き」でした。この猫のモデルはそうへい店長だといつもは言っているんですが、実はこの箸置きを作るきっかけとなった猫がいたんです。それが黒猫のぽん太。

 ぽん太は僕が北九州の大学に通っていたころ、里親探しをしている方から譲り受けた保護猫。すらっとした体型で運動神経がよく、喧嘩も強かった。そうへいなんて近寄っても相手にさえしてもらえませんでした。

 そうへいがやってきてしばらくたったころ、そのぽん太が扁平上皮がんになったんです。がんを発症したぽん太の顔は、顎の骨が変形してしゃくれ、次第に口が開かなくなりました。そのため、チューブを口に差しこみ、液状にした食べ物をスポイトで流し込まなければなりませんでした。ぽん太はそれでも普段食べていたフードを欲しがり、顔が相当痛いはずなのに僕たちに苦しいそぶりを見せず、ただただ生きようとしていました。

 「手術すれば良くなるかもしれないが、高額な費用がかかる」と聞き、僕はいてもたってもいられなくなりました。それで無我夢中で作ったのが「黒猫の箸置き」だったんです。少しでもぽん太の手術費の足しにならないかと、5つの型のデザインを、あっという間に一晩で仕上げていた自分がいました。

 結局、「高齢で負担に耐えられないかもしれない」と手術するには至らず、約1年の闘病生活を経て、ぽん太は19歳で虹の橋を渡りました。大往生でした。その後、箸置きはそうへいのイメージも加え、改良を重ねて今の形になり、みなさんに愛される商品になりました。

 僕はこれまで磁器の制作が中心でしたが、今年からは地元・唐津の土や伝統の釉薬を使った陶器づくりに取り組んでいます。既成の枠や決まりごとにとらわれず、その時々に思いついたことを、自由気ままに試しているといった感じです。そういう意味では、猫のきまぐれさにちょっと通じるところがあるのかもしれませんね(笑)。仕事を楽しむことが、結果的に楽しい器につながるのではないかと考え、自分なりの唐津焼を模索しています。

 壁に寄りかかって毛繕いしたり、お腹を出して寝たりと、そうへいのユニークなフォルムや仕草は、いつも家族やお客さんを和ませてくれています。ムードメーカーのような存在ですね。今年のねこの日(2月22日)には、猫をモチーフにしたオーバル皿を作ってみました。オリジナルの技法を試したりしてとても楽しかったので、来年のねこの日も、自分にしかできない器を作りたい。そうへい店長を眺めてはインスピレーションをもらい、試行錯誤の日々を過ごしています。

【窯名】「赤水窯」
【住所】佐賀県唐津市鏡4758
【電話】0955-77-2061
【HP】https://www.akamizugama-karatsu.com

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