誕生日やクリスマスのプレゼントとして犬や猫、ウサギなどの小動物が贈られ、箱の中から飛び出してきた新しい家族に狂喜乱舞!といった動画は世界中にあふれています。でも、家族になったはずのその動物が、あっという間に捨てられる…という悲しい現実もまた、世界中にあるのです。9月で12歳になるピコ君も、最初はそんな“ギフト”でした。
ピコ君は2007年9月4日生まれの男の子。トイプードルとシーズーのMIX犬です。今のようなMIX犬ブームはまだなかったと思いますから、ペットショップでは目を引いたかもしれません。購入したのは若い男性。当時、付き合っていた女性への誕生日プレゼントにと、ローンを組んで買い求めたそうです。犬が好きで、いつか飼いたいと話していたであろう彼女は、ピコ君を見て喜んだに違いありません。ところが…。
2人はほどなく別れてしまいます。ピコ君は女性が引き取りましたが、ケージに入れっぱなしでほとんど世話をしなかったとか。別れた男性を思い出すのがイヤだったのかもしれませんが、ピコ君に罪はありません。引き取った女性には“命”を大切に育む責任がありました。でも、そうはしなかったのです。
そんなピコ君の姿に胸を痛めていたのは、女性の母親。ある日、犬を散歩させていた見知らぬ女性に、思わず声を掛けました。「娘のところにも犬がいるのですが、ケージに入れたままほったらかしで…」。犬を連れた女性が「もし、誰かが引き取ってくれると言ったら、どうしますか?」と尋ねると、母親は「喜んで!」と答えたそうです。
犬の散歩中だった女性は、ピコ君を救出するのに時間的余裕はないと判断したのでしょう。自身の家ではもう飼うことはできませんでしたが、実家の両親を頼るつもりで話を進めました。頼られたのが、ピコ君の現在の飼い主、兵庫・西宮市に住む寺井晴江さんです。
「私も働いていましたし、犬を飼うなんて無理だと思っていました。翌年、定年を迎えたら、いろいろしたいこともありましたし…。でも、私がOKする前に、娘が引き取ってきてしまったんです。シャンプーとカットをして家に連れて来たときは、『えーっ』でしたけどね(苦笑)」
寺井さんは犬を飼うのが初めてだったので、どんなフードをあげればいいのか、しつけはどうすればいいのか、すべて手探りでした。でも、「一度飼うと決めたからには、途中で投げ出すわけにいきません」ときっぱり。この言葉、最初の飼い主に聞かせたいものです。
寺井家に来なければ、ピコ君の“犬生”はまったく違うものになっていました。ケージの中の狭い世界しか知らず、栄養不足や運動不足で、長くは生きられなかったかもしれません。ペットの命運は飼い主が握っているのです。
寺井家の壁の一部は、下半分にタイルが貼られています。ピコ君がオシッコをしたり、かじったりしてしまうので、その対策として貼ったものです。ほかにも“ピコ君仕様”の個所がいくつかありました。寺井家の大切な家族である証拠です。一緒に生活するようになって11年。寺井さんは「もう、いない生活は考えられませんね」と、ピコ君を抱き上げながら話してくれました。