「子ども」という表記は漢字と平仮名書きが混在するのが気になるのでやめてほしい、できれば「子供」あるいは「こども」で統一してもらえないか―。まいどなニュース編集部に先日、読者からこんな声が寄せられた。当編集部は神戸新聞社の一部署でもあることから、基本的には神戸新聞のルールに則った表記を採用することが多い。「子ども」が目立つのはそのためだ。とはいえ、ややこしいが神戸新聞も当サイトも「子供」が使えないわけではない。実は「コドモ」をどう表記するかは、媒体や書き手によっても異なり、活字業界では昔から議論になりやすい“あるあるネタ”のひとつなのだ。良い機会なので、主に新聞社の見解を踏まえながら、「子供」と「子ども」で表記が揺れる理由を取材した。
新聞社が参照する「記者ハンドブック」では
まず前提として、神戸新聞を含む多くの新聞の漢字表記は、共同通信社の「記者ハンドブック 新聞用字用語集」に準拠している。では最新の第13版(2016年3月発行)で「コドモ」がどう書かれているかというと、ずばり「子供・子ども」。要するにどちらでも構わないのである。ただし「一般には『子ども』が多く使われている」との注記がある。
同社の用語委員会によると、1956年の初版発行時は「子供」だったが、81年第4版1刷からこの注記が加えられ、98年9月の第8版3刷以降は「子供・子ども」と併記するように。その理由として、担当者は「文部省(当時)の教育白書などの公用文で『子ども』が使われるようになったことや、『供』には『女子供』というように『付き従う者』という意味があり好ましくない、という判断があったようだ」と説明する。なお、文部科学省は近年、公用文では「子供」と書くようになっているという。
「供」=従属的?各新聞社は「子ども」が基本
現状、ルール上はどちらも使えるわけだが、新聞各社の方針はどうか。
まずは神戸新聞。直近1週間のデータベースを調べると、「子供」15件に対して「子ども」は126件。読者の文芸作品や固有名詞(歌のタイトルなど)が「子供」、一般記事のほとんどが「子ども」という明確な傾向があった。
長沼隆之・報道部長は「個人的には『子ども』の優しく、柔らかい感じが好きなのでこちらを使うが、決して『子供』がダメだというわけではない」と話す。「慣習的に引き継がれてきた先輩やデスクからの指導、長年の慣れなどで『子ども』が染みついている記者が多い印象だ。もし根拠を問われたら、それぞれの経験と好みだとしか言いようがない」
オンデマンド調査報道の取り組みで連携する全国の地方紙にもアンケートを実施し、13社から回答を得た。その結果、ほぼ全てが「子ども」であることが判明。「子供」でも可、とされていることは認識しつつ、「記者ハンドブックの注記に基づいている」「『子ども』の方が字面の印象が柔らかい」と答える社が目立った。
さらに「20年以上前、入社直後の研修で校閲記者に『子どもは大人の「お供」ではない』と説明された」(岩手日報)、「『供』が持つ従属的なニュアンスを敬遠した結果だと思われる」(北日本新聞)など、「供」のイメージを理由に挙げた回答も複数寄せられた。
専門家の見解「『供=お供』のイメージは誤り」
ところが、新聞業界でも根強いこの「供=付属物、お供」という見方に対し、国語辞典編纂者の飯間浩明さんは「史実に基づいておらず、まったくの俗解です」と断言する。
「もともと、『コドモ』という語は『子』の複数形を表し、古くは『子等』などと書かれました。そのうち、複数形の『とも』は『共』を使うように。『子共』で『子』の複数形を表すわけです」
「ところが、やがて『コドモ』は単数の『子』の意味を表すようになり、『子共』という表記では複数のようで違和感が生じてきます。それと区別するため、にんべん(=『人』の意味)を添えた『供』が用いられるようになったのです。つまり、当初から『従属的』という意味合いはまったくありませんでした」
さらに、冒頭の読者からの「交ぜ書きが気になる」という意見については「その考えでいくと、例えば『朝もや』『口ひげ』『胸びれ』は『朝靄』『口髭』『胸鰭』と難しい字で書かないといけなくなるし、『隅っこ』『地べた』『葉っぱ』は漢字だけで書けず困るでしょう」と指摘。その上で「日本語は漢字と仮名の交ぜ書きが普通であり、『子ども』が美しくないとは、必ずしも言えませんね」と説く。
毎日新聞の校閲担当「表記は選択の余地がある」
また、毎日新聞東京本社の校閲センターは2018年5月5日の「こどもの日」に、運営するサイト「毎日ことば」でこの問題を取り上げた。校閲としてはやはり「子供」でも「子ども」でもよく、記事内で表記が割れていない(ばらつきがない)限りは直さないという。
https://mainichi-kotoba.jp/blog-20180505
担当者はここからさらに、「子供派」と「子ども派」がそれぞれの言い分を掲げて「どちらが『正しい』のかをことさら競っているような印象があります」と踏み込む。「個人が語から受けるイメージをどう持つかは個人の自由ですし、好きな表記をすればよいと思います」とした上で、「日本語の文字表記は本来、選択の余地があるものです」「表記に対する『こだわり』は、まず自分自身の個人的なものなのだ、と考え直すことも大切ではないかと思います」と結んでいる。
ちなみに「毎日ことば」がサイト上で行ったアンケートによると、普段「子ども」と書く人が63.3%、「子供」が25.4%、「こども」が5.4%、「特に意識していない」が6%という結果が出たそうだ。