「奈良県ではない関東地方で、奈良漬が売られているのを見ました。奈良以外で奈良漬が売られているお店があるのは、何故なんでしょう?」という疑問が編集部に寄せられた。
「奈良が発祥で、奈良で作っているから奈良漬じゃないの?」と勝手に思い込んでいたが、いわれてみればどこへ行っても見かけるような気がする。いったい、どういうことだろう。奈良県で操業している「本場奈良漬製造元・奈良屋本店」に聞いた。
「奈良漬が奈良で発祥したという確たる記録はありません。通説として、発掘された長屋王の木簡の記述から、そうであろうといわれています」
ほかにも、興福寺の僧が、道端にあった瓜を酒のもろみが入った甕(かめ)に入れておいたところ美味しい漬物になったとか、奈良時代に唐から伝わったから奈良漬と呼ばれるようになったとか、1200―1500年前にはすでに存在していたなど諸説ある。
奈良県以外で操業している製造元にも聞いてみた。茨城県取手市にある老舗の製造元・株式会社新六本店に聞くと「奈良漬はそもそも奈良が発祥の地で、ルーツについては古く奈良時代に遡ることができます。唐から仏教とともに日本に渡来し、酒の名産・奈良で唐帰りのお坊さんが漬けたのが発祥とされます。長屋王(ながやのおう/729没)の邸宅跡から出土した3万点の木管の中に粕漬についての記述木片が発見されました」とのこと。
もちろん、どちらが正しいではなく、どの説を採っているかの違いである。
「奈良漬」という名が文献に初めて確認されるのは、明応元年(1492年)の「山科家礼記」で、宇治の土産として記されている。そして江戸時代になり、奈良を訪れる旅人によって全国へ広がったという。
私たちがよく目にする奈良漬は、白瓜を酒粕で漬け込んだものが一般的だ。ほかに胡瓜、西瓜、生姜などの野菜が材料になる。沖縄ではパパイヤを使った奈良漬もある。実際の製法は酒粕に漬ければいいという単純なものではなく、長い期間と手間をかけてつくられる。
では、奈良漬を名乗れる条件とか定義はあるのだろうか。これについては農林水産省が「農産物漬物の日本農林規格」の第7条で「なら漬けの規格は、次のとおりとする」と定めている。
ちなみに「香味」「歯切れ及び肉質」「色沢」「食品添加物」が同じとされる「第3条」は、たくあん漬けの規格だ。参考までに、たくあん漬けの規格は次の通り。
この規格に従って製造された漬物が、生産地を問わず「奈良漬」を名乗れるというわけだ。前述の取手市のほかにも全国で「奈良漬」が製造されている理由だ。
また酒粕を使用するため、沢の鶴や月桂冠などの酒造メーカーが奈良漬を製造販売している例もある。
ルーツがはっきり分からないほど古くから日本人に食べ続けられてきたからには、さぞかし健康に良い食べ物に違いない。
新六本店によると、食物繊維をはじめ、活性酸素を抑制する効果があるといわれているポリフェノールが含まれているため、生活習慣病の予防やアンチエイジング効果が期待できるという。