「和牛と国産牛は同じじゃないの?どう違うの?」という疑問が当サイトに寄せられた。違いそうなことはなんとなく分かっていても、具体的にどう違うのか。大阪市内で食肉業を営む森田真規さんにお話を伺った。森田さんは全国食肉検定委員会が実施する「お肉検定」で「お肉博士1級」を取得している、お肉のエキスパートだ。
「おおまかにいうと、日本で和牛と呼ばれているのは一般的に黒毛和牛のことです」と前置きしたうえで、「日本国産の牛には黒毛和牛、ホルスタイン牛、ジャージー牛などいろいろありまして、和牛(黒毛和牛)も国産牛のひとつです」という。
では「国産牛」と「和牛」の違いは何なのだろう?
「国産牛」とは
「日本国内で産出(屠殺、精肉)された牛肉は全て“国産牛肉”と表記され販売されます。ですから香り高く肉質が良く価格の高い黒毛和牛も、リーズナブルなホルスタイン牛も、ひとまとめに国産牛なのです」と森田さん。どうも国産牛とは、牛の原産地を表していそうだ。
海外で産まれた牛も日本国内で育てると日本国産牛となるが、肥育期間の半分を日本で育てることが条件だという。食肉牛の肥育期間はだいたい30カ月前後なので、最低15カ月を日本で肥育すると「国産牛」と呼べるわけだ。
「和牛」とは
森田さんによると「日本で和牛と呼ばれているのは黒毛和牛、褐色和牛、無角和牛、短角牛の4種類で、このうち一般的には黒毛和牛のことを指して和牛と呼んでいることが多いと思われます」とのこと。つまり、和牛とは国内で産出された牛のうち、限定された品種のことをあらわすようだ。
余談ながら、和牛を海外で売るときは、アルファベットで「WAGYU」と表示できないそうだ。
「オーストラリアが“WAGYU”の登録商標を、日本より先に申請してしまいました。そのため日本の黒毛和牛を“WAGYU”と表記できないので、たとえば“KOBE beef”という銘柄でブランディングされています」
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スーパーなどでパック売りされる場合の、表示の違いも法律ではっきり区別されている。
「食品衛生法の食品表示で明確に違いがありまして、黒毛和牛の表示は黒毛和牛にのみ許されます」
たとえば「ドコドコ産黒毛和牛」とか、銘柄で「ナントカ牛」というように表示される。
一方「国産牛」と表示されている多くの牛は、だいたいが国産交雑牛でホルスタイン(乳牛)と黒毛和牛のハイブリッド(交雑)種。価格も黒毛和牛と比べるとリーズナブルだが、味と香りはホルスタイン牛と比べるとかなり黒毛和牛寄りだという。
しかし「国産牛と表示されて販売されている肉の中には、ホルスタイン牛や黒毛和牛の経産牛などもあって、値段は安いけれど 味や香りが劣るものもあります」という。
ところで、世界ではさまざまな種類の牛が、牛肉として食されている。アメリカ、オーストラリアで食されているアンガス種、ヨーロッパで食されているヘレフォード種は、黒毛和牛種と比べると赤身よりだ。和牛には「高級」というイメージがあるけれども、その背景には何があるのだろうか。
「黒毛和牛種の味・柔らかさ・和牛香が他の種にはない独特さで、長く日本国内でしか食べられていませんでした。それが需要の高まりとともに価格が高騰し、高級なイメージへと繋がったと考えられます」
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最後に、お肉のお得な選び方を伺ってみた。
「ひとくちに国産牛といっても、ピンからキリまであります。黒毛和牛とホルスタイン牛(乳牛)のハイブリッドという国産牛がオススメです。味・香りとも黒毛和牛に近く、早く大きく育つホルスタイン牛の特性を兼ねそなえています。価格は黒毛和牛の半分―3分の2ぐらいです」