京都を流れる鴨川と高野川が合流する通称「鴨川デルタ」(京都市左京区)に毎月22日、巨大なショートケーキが出現する。地元のグラフィックデザイナーの女性が学生時代に仲間と制作した造形作品で、ピクニックと組み合わせた野外展示を8年間続けてきた。ところが、目標の100カ月も間近に迫った4月、ケーキを保管していたカフェが休業となり、撤去を迫られる事態に。ツイッターなどを通じて助けを求めたところ、救いの手がいくつもさしのべられ、新たな受け入れ先が無事決まった。女性は「人の温かさを改めて感じた」と喜びをかみしめている。
「大至急ケーキ引越し先探してます」
4月21日夜、ショートケーキの制作に携わった重光亜沙美さん(30)は、ツイッターにそう投稿した。前日にカフェから休業の連絡を受け「焼却処分は何としてでも避けたい」とすがるような思いで書き込んだ。
ショートケーキは、重光さんにとってかけがえのない存在だ。京都精華大の卒業制作のミュージックビデオのために手掛けた作品で、幅2メートル、奥行き1メートル、高さ1メートルほどの大きさ。卒業後も京都に残ったので「何かおもしろいことを」と鴨川デルタにケーキを置いてピクニックを催すことを思いつき、毎月22日を開催日に選んだ。カレンダーの配置で真上に15日、つまり「イチゴ」が乗るので「ショートケーキの日」と呼ばれていることにちなんだ。
鴨川デルタのショートケーキは地元の名物となり、ピクニックを通じて交流の輪も広がった。そんな矢先に起きた保管場所問題。重光さんは活動継続の危機に立たされた。
ツイッターで発したSOSへの反応は早かった。リツイートは2千件近くに上り、受け入れについての問い合わせも15件ほどあった。その中から、出町桝形商店街内の古本店「El camino(エルカミノ)」(上京区)の店頭で当面の間保管できることが決まった。
4月29日、ショートケーキの引越が行われた。重光さんら3人が台車に載せ、40分ほどかけて移動させている間、道行く人たちが振り返り「すごい」「ショートケーキだ」と驚いた表情を見せた。
古本店を経営する田中啓史さん(43)は、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛の影響で客足が遠のいているとして「休業を余儀なくされる店も出てきている。商店街の店主たちにもお客さんたちにも明るい話題を提供したかった」と受け入れの意図を説明した。隣接する映画館内のカフェ「出町座のソコ」は、引っ越し翌日に巨大ショートケーキにそっくりなケーキを客に振る舞ったといい、田中さんは「ケーキの受け入れをきっかけに楽しくなれば」と笑みを浮かべる。
重光さんは「一時的にでも置かせてもらえて本当にありがたい。新型コロナの影響でピクニックは4月から中止しているけど、落ち着いたらみんなで集まりたい」と話した。