朝ドラで俳優人生を変えた人 『ひらり』は渡辺いっけいの「演技学校」だった

石井 隼人 石井 隼人
朝ドラが変えた俳優・渡辺いっけい
朝ドラが変えた俳優・渡辺いっけい

ところが「テレビなんてちょろいぜ!と思って入ったら、全然難しくて…」と早速出鼻をくじかれる。例えば、ふっと目線を動かすだけの演技でのこと。「僕の場合は目力が強くて、ふっと見ているつもりなのにギロリと睨んでいるよう見えた。今でこそ舞台を映像で記録して見るということができますが、僕らの時代はそんなものはないし、本番それだけ。自分の演技を映像で見せられたときは…驚きましたね」とある種のカルチャーショックを受けた。

そんな渡辺を救ったのは、『ひらり』のチーフディレクターだった富澤正幸氏。「チーフの富澤さんが素晴らしい方で、今では考えられないことですが、テレビでの映り方の基礎を実地で教えてくれました。まずは僕のやりたいように演じて、それをモニターで見せてくれる。次に演出指導があってその通りにやってみる。すると富澤さんの指摘通りに演じた方が自然だった。まさに演技学校みたいで、テレビでの演じ方というものを一から教えてもらいました。それ以来NHKには頭が上がりません」と感謝しきりだ。

舞台俳優としてアルバイトもせずに食べていけた、そんなキャリアとプライドもあったはずだが「そういう意味では僕は真面目だったのかもしれないね」と笑いつつ「テレビは舞台と違って完成形を自分でも客観的に見ることができて、失敗もわかる。場数を踏めば踏むほど勉強になる。それが凄く良かった。自分の演技を客観的に見てダメな部分を直せるというのは演技者として素晴らしいツールだと感動しました」。その後の渡辺の活躍ぶりは周知のとおり。テレビドラマだけではなく、映画に舞台に、アニメ声優までも。初主演映画『いつくしみふかき』の公開も控える。

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