信楽焼で知られる滋賀県の信楽で、陶芸の世界に飛び込んだ女性の半生を描くNHKの連続テレビ小説「スカーレット」。隅々まで丁寧に作り込まれたドラマの世界を支えるのが、まさに「陶芸」それ自体だ。器などの作品はもちろん、主人公・川原喜美子役の戸田恵梨香、夫・八郎役の松下洸平らが実際に土をこね、ろくろを回す姿も、ドラマには欠くことのできない重要な要素になっている。陶芸指導を担当している高畑宏亮さんに、ドラマとの具体的な関わり方や現場の2人の様子などを聞いた。
高畑さんは滋賀県の信楽窯業技術試験場の職員で、自身も陶芸作家。信楽高校を卒業後、陶磁器の生産が盛んな愛知県瀬戸市や岐阜県土岐市で技術を学び、29年前に今の職場に就職したのを機に地元へ帰ってきた。「スカーレット」は滋賀県が撮影に協力することになったため、実際に陶芸もできる高畑さんに話が回ってきたという。
「僕は肩書が滋賀県の職員なので、信用も担保されている。どう考えてももってこいの人材なんですね(笑)」
陶芸場面は吹き替え一切なし
ドラマでは、戸田も松下も吹き替えなしで陶芸に挑戦している。手元がアップになるような場面も、写っているのは全て本人たちのものという。
「役者さんは集中力がすごい。限られた時間しかないので、一度にあまりたくさん教えることはできないのですが、2人ともちょっとアドバイスしたらシュシュシュッとできるようになるので驚きました」
「土をこねるとき、普通は腕だけで力任せにやってしまいがちなんですけど、『足と体全体を上手に使ってやるといい』と教えると、『あ、ほんまや』とすぐできてしまう。窯業技術試験場でも若い子を教えていますが、2人は感覚を掴むのがすごく早いですね」
「あと、松下さんは陶芸がムチャクチャ好き。ほっといても勝手に練習場所でろくろを回してます。僕がいなくても自分で土を練り、作品を作って、『今度“削り”教えてください』とか。焼き上がりにも、彼は『こうしたい』という明確なビジョンを持っていて感心しました」
松下洸平は「むっちゃいい子」
松下といえば、八郎の魅力に沼のようにハマる視聴者が続出し、SNSでは「#八郎沼」という言葉が生まれるほどの反響を呼んだ。「スカーレット」出演前はほとんど無名だった松下は、撮影現場ではどんな様子なのだろう。
「あの子ははじめから全然変わんない。むっちゃいい子。僕らとも普通に喋ってくれるしね。普通、芸能人と接するときって、こちらもかなり気を使いますやん。でも彼はすごくフレンドリー。あ、喜美ちゃん(戸田)もそうですよ」
「あと、彼はほんまに焼き物が好きすぎる。アトリエ作ったるから、もう信楽に来て陶芸作家になれよ、と言いたい(笑)。それくらい、川原夫妻は信楽にとって大事な存在。あの2人のおかげで、タヌキだけではない信楽焼の魅力を世間は見てくれましたから」
センス抜群、なんでもできる戸田恵梨香
一方の戸田は、主演で出ずっぱりのため、純粋に陶芸を楽しむための時間を取ることはなかなか難しいそうだ。
「喜美ちゃんも本当はもっとやりたいので、そこは残念そう。だから、ろくろのシーンでは、OKが出た後もずっと一生懸命作り続けたりしている。陶芸が楽しいんやろな、と思います」
「体つきが華奢で、力もなさそうに見えるけど、彼女は体重の使い方がすごく上手で、土もちゃんと自分でこねる。ろくろを回すシーンなんて、信楽の人が見ても『あれ、お前(高畑)の手とちゃうんか』と言うくらいのレベル。とにかくセンスが抜群で、何をやらせてもできる人ですね」
一口に「陶芸指導」といっても、実際の高畑さんの仕事は、戸田や松下に陶芸の手ほどきをするだけではない。