登録者数20万人以上!YouTube「大愚和尚の一問一答」…スマホ説法、きっかけは相談者の自傷行為だった

北村 泰介 北村 泰介

 YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」を発信する僧侶の大愚元勝氏が、著書「苦しみの手放し方」(ダイヤモンド社)を出版した。同チャンネルは登録者数は現時点で20万人以上。「実際にお寺に行かなくてもスマホで説法が聞ける」と話題になっている。事業家、作家、セラピスト、空手家といった多彩な顔を持つ異色の僧侶に「なぜYouTubeなのか」と問うた。

 僧名「大愚」とは「大バカ者=何事にもとらわれない自由な境地に達した者」の意。複数の事業を立ち上げて軌道に乗せつつ、愛知県小牧市で540年の歴史を誇る禅寺「福厳寺」の住職を務め、地域に密着した「寺町構想」を掲げる。そんな大愚氏がYouTube問答を始めたきっかけとは何だったのか。

 「7~8年ほど前、受験と恋愛で行き詰まって拒食症、過食症、リストカットを繰り返していた女子高生のお母さんから『家庭が崩壊寸前』と、ご相談を受けたのですが、社会的にも立場のある家の方ほど、顔も名前も住所も知られている人に、内輪の悩みを打ち明けることはできないんだな、人知れず苦しんでいる人がおられるんだなと気づきました。そこで、当時普及していたのがYouTube。顔を合わせなくても匿名で悩みをぶつけられ、悶々と苦しんでいる人に届くのではないかと思ったことが、始めたきっかけですね」

 母親に連れられた女子高生は大愚氏の前で手首を切った。「それが衝撃的で、何とかしなくてはと思ったのです」。同氏がとっさにナイフを叩き落したため、命に別状はなかった。手首に残る過去の自傷跡を指して「体は生き延びようと、全エネルギーを使って傷をふさいだ。それが『命』です」と伝えた。そんなやりとりを世界に広めたい。約5年前からYouTube問答を始め、苦しみを吐き出して可視化することに努める。

 YouTubeを使いながらも、著書では「インターネットを使えば『スキル』は身につく。けれど『心』は身につかない」とつづり、「面授」の大切さを説いた。面授とは、対面して師から直接、教え授かることを意味する。

 大愚氏は「面授が一番いいんです。私のYouTubeでは、目の前にその人がいて、相談に乗っている状況を再現しています。登録者が3万人を超えたあたりから、知人のIT社長さんなどに『もっと短く、3分くらいでやらないと、せっかくいいことを言っていても(視聴者が)離脱してしまう』と言われたのですが、本当のご相談事に『まとめで3分』はあり得ない。20~30分くらいが理想です。たまに熱が入ると40分の時もありますが、主婦の方ですと朝の家事の間に聴かれて、1日を頑張る動機付けにして下さる方もおられます。通勤時間に聴かれることが朝のルーティンになっている方もいます」

 YouTubeに接する層は一般的に若く、いわゆる「ネット民」と称される層かと思われがちだが、老若男女がアクセスしているという。

 「ネット民でない方もすごく入ってきていると実感します。質問された最年少は11歳でしたが、最高齢が80歳を超えておられます。YouTubeは見られるけども、パソコンが打てない方はお手紙をくださいますし、逆にネット民と言われる方々の方が少ないかなというくらい広がりはある」

 今後に向けた思いも語った。

 「お寺が地方から消えていくと言われている時代の中、地域と、よりよく生きる知恵や心の拠り所としてのお寺との関係を模索していく「寺町構想」が、僧侶として一番取り組んでいきたいこと。慈悲心と智慧(ちえ)を備え、自分で社会の問題を見つけ、真正面から取り組む起業家たちを育てたい。月に一度、経営者を対象にした『経営マンダラ研究会』という勉強会を開いたり、そんな活動をこれからも続けていきたいと思っています」

 大愚氏はそっと手を合わせた。

■YouTubeチャンネル「大愚和尚の一問一答」 https://www.youtube.com/channel/UC4arQnli3ffEuCSrSgAD_Ug

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