半径1km圏内に“シンガー女僧”同時出現の謎 「美しすぎる尼」としてTV出演の過去も

北村 守康 北村 守康

 近鉄大阪阿部野橋駅から特急でちょうど1時間の距離にある下市口駅(奈良県吉野郡)は、歴史と自然の宝庫、吉野地方の玄関口といえる。実はこの地、筆者のふるさとでもある。駅から南へ伸びる商店街はかつて吉野随一の繁華街で、少年だった筆者にとって世界のすべてだった。時代は移り、複数の大型チェーン店の進出、高齢化、それに伴う後継者不足によって閉店が相次いだ。昭和50年代の活気を知っている筆者にとっては寂しい限り。しかし暗い話ばかりではない。この駅から徒歩圏内にある二つの寺にメディアでよく取り上げられる、オリジナルソングを歌い法話をする若い女性僧侶がそれぞれいる。しかしなぜこの地に?そして2人も?この局地的珍現象の真相を探るため、筆者は帰郷した。

 2人は共に30代。清楚でみずみずしい今どきの女性だ。2つの寺は下市口駅から南へ伸びる道路沿いに位置し、その距離は約900m。途中に吉野川に架かる千石(せんごく)橋があり、それを越えると大淀町から下市町に変わる。二つの寺は近距離にあるものの自治体も宗派も異なるため、2人は接点がないまま育ち、僧侶になってから互いの存在を知るようになる。わずか900mの地域内で起こった珍現象を筆者なりに解き明かしてみる。

 寺のお堂はもちろん、ライブハウスなど様々なステージで仏の教えについて書いた歌詞をリズムに合わせて歌うのは、西迎院の副住職の光誉祐華さん(37)。ステージでの堂々とした姿からは想像できないが、子どもの頃は、引っ込み思案でコンプレックスにさいなまれていたという。「地元の友人たちには(現在の活動が)とても意外に思われます。でも歌とお笑いは子どもの頃から好きだったんです」とはにかむ。

  安室奈美恵に憧れた少女は、自分がステージに立って歌うことを想像した。自分を応援してくれるファンの人が現れたら自信になり、コンプレックスも克服できるだろうと、高校生の時に思い切ってタレント事務所のオーディションを受け、見事合格。ボイストレーニングに通う日々が始まる。そんな高校生活を送っていた時、父方の祖父が亡くなった。人生で初めての近親者の死。卒業間近の高3の3月だった。

 「住職である父は一般家庭の出身で、祖父は画家でした。父は病床の祖父を臨終行儀という仏教の儀礼で、送ることに決めました。『頑張って』『元気出して』と、死に行く人へのそんな声かけは臨終の際、故人がこの世に執着を残してしまう。故人がこの世に執着しないよう、仏さまにお迎えいただけるよう南無阿弥陀仏を唱えて家族みんなで送り出すのが一番いいと、私たち家族を諭すんです。そんな父の姿を目の当たりにし、自分にはとうていそんな気丈な振る舞いはできないと思いつつ同時に仏教には死別という、人生で最も辛い出来事をも乗り越えられるだけの教えがあることを知り、仏門に入りたいと思うようになりました」

 大学卒業後、父が住職を務める西迎院に入り、僧侶として日々を過ごす中で、寺の行事や法事に集まるのは年配の方ばかりだと痛感させられ、このままだと仏教の教えを次世代に引き継ぐことができなくなると危惧し、愛$菩薩となって歌と法話の“仏教伝道ライブ”をするようになったのが2007年。「私にとって歌は、仏教に関心がない若者に、仏教を知るためのきっかけ作りをしてもらうための一手段であって、目的はあくまでも仏教の素晴らしさを伝え、実感してもらうこと」。僧侶としての真摯な姿勢もファンには魅力なのだろう。

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