11日で東日本大震災から9年が過ぎました。当時を振り返り、もし今地震などの災害が起きたら、子どもを連れて避難ができるのか…と不安に感じる親御さんは少なくないのではないでしょうか。大勢が身を寄せ「我慢すること」や「周りに迷惑をかけないように静かに過ごす」といったことが求められる避難所生活は、元気が有り余っている子どもたちには大きなストレスになります。特に「じっとするのが苦手」という多動傾向の子どもは「我慢する気持ちがない」「わがまま」と捉えられることも少なくないのです。
こうした多動症と呼ばれる子ども(以下多動症児)の行動は、「動いていると気持ちが落ち着く」など彼らなりの理由があります。それをしっかりと把握した上で関わることが不可欠です。
【避難所生活における多動症児の課題】
多動症児は、基本的に「落ち着きがない」「我慢ができない」と言われることが多いですが、実は子ども自身も「自分で行動を調節できない」という困り感を持っていることが多くあります。
例えば、「視覚優位」という「視界の中に入ってきたものに反応してしまう特性」があれば、つい確認しに行ってしまい、その結果じっとしておくことができないという問題につながってしまいます。同様に「聴覚優位」という「周りから聞こえてくる音に反応してしまう特性」があれば「落ち着かない子ども」と判断されてしまいがちです。
他には、「動き回る感覚(身体が動いている感覚)が好き」「顔に風が当たる感覚が好き」などの理由で、動き回ることを好む子どもも多くいます。子ども自身は「好きな感覚で気持ちを満たしたい」ゆえ、動き回るという行動をとっているのです。
このようなことは、脳の神経ネットワークの特性に由来するため、子どもが自分の気持ちでコントロールできるといったものではありません。そのため、「どうしてじっとできないの?」と尋ねたり、「落着きなさい!」と叱ったりすることは、子どもの気持ちを抑制することにしかならず、余計に不安を与えてしまうことにつながりますので注意が必要です。
特に避難所という普段とは違う場面に、子どもは敏感になっているため、自分で自分の気持ちを落ち着けようとして、いつも以上に多動になってしまうこともあります。こういった特性を理解し、適切な環境設定をしてあげることが、多動症児の避難所生活では大切です。
【具体的に起こりうる問題】
具体的には、次のような行動が「問題」として捉えられやすくなります。
①感覚が満たされない→動き回る
避難所では活動できる場所や範囲などが制限され、動くことで満たされる感覚を十分に得ることができません。感覚が満たされないから、好きな感覚を求め、さらに動きたくなるのです。
②視覚優位、聴覚優位→動き回る、疲れやすくなりイライラする
周囲の雑音や人の動きが多いので、周りの刺激が気になって見に行ったり、アンテナをいつも以上にはりすぎて、本人も疲れやすくなったりします。
③我慢が難しい
何もせずにひたすら待つということが難しいので配給やトイレの長蛇の列に並ぶことを諦めてしまうことも起こりえます。
④大声を上げる、衝動的な行動に出る
慣れない避難所生活で気持ちが安定しないと、物を雑に扱ってしまったり、大声を上げたりと周囲の人に誤解されやすい行動をとってしまうことがあります。
⑤保護者への不満
さらに、こうした子どもの特性を周囲に理解されないまま避難所生活を続けていると、子どもは行動を制止されることが多くなり、保護者は「しつけがなってない」と非難され、保護者が不安な気持ちを持つことがさらに子どもの行動をエスカレートさせたり、居場所を無くしたりするといった負の連鎖につながりかねません。