貝の小さな殻の内側には、ガウディの建築物にも劣らぬ独創的で美しい空間が広がっています。一般人には容易に覗けない、この未知の世界をかいま見れる展覧会が開催中です。SNSでは「もしこれが自然物ではなく、人の作った彫刻作品だとしたら…とんでもない天才が作ったと思うだろう」などと絶賛の声が上がっています。また同展には魚の骨格を外殻にまとったような奇妙な貝「ホネガイ」の標本も登場。こんなトゲだらけでは、とても生きていくのが大変そうですが、でも実はこのトゲは意外な役割を果たしていて…奥深く神秘的な貝の世界へいざ!
こちらの展覧会は東京大学総合研究博物館小石川分館/建築ミュージアムで3月15日(日)まで無料で展示されている特別展示「貝の建築学」です。同館は自然物や人工物の「アーキテクチャ(構成原理)」の探求を基本テーマとする建築博物館。本展では貝が自ら貝殻を形成し、その内部で暮らしていることから「貝殻」を「建築物」と捉え、その観点から貝殻内部の造形を展示しているといいます。殻を薄くスライスしてその断面をみせることで、内部構造の螺旋の複雑さや精緻さ、そして多様性を私たちに教えてくれます。かつてない規模の標本が集結し、その数はなんと100種類以上。貝殻の内部構造を示す切断標本の他、世界各地から収集された貝殻標本を見ることができます。
このユニークな展覧の企画意図、展示標本のなかでも特に造形が珍しい貝殻、その魅力などについて佐々木猛智先生(東京大学総合研究博物館 准教授/動物分類学、古生物学)に聞きました。
―なぜこのような展示をしようと思ったのですか。
「小石川分館が建築をテーマとする博物館であること、貝殻は貝の建築物と見なすことができる、という2つの理由で貝の建築学というタイトルにしました。貝殻を建築物の観点から見たいと思った場合に、外見よりも内部構造を見る方が理解しやすくなります。そのため、切断標本を展示しました」
―貝にとって貝殻内部が「建築物」なのであれば、それは貝にとって「より快適な住処」にするためにあの螺旋構造が出来上がる、ということでしょうか。
「細長い筒状の殻より、螺旋状に巻いて螺旋が互いに接する方が殻が壊れにくくなります。螺旋状に巻くことにより安全な殻ができていると考えてよいかと思います」
―今回の展覧で苦労したのは。
「苦労した点は、殻が薄く壊れやすい種の切断です。ゆっくり時間をかけて切る必要があり手間がかかります。断面の作成は岩石を切断するためのダイヤモンドカッターを使用しています」
―特に珍しい貝殻として、先生は「ホネガイ」を選ばれました。なぜですか。
「貝はもちろんたくさん種類がありますが、この貝はもっとも長くて数の多いトゲを作る貝です。また、トゲを建築物として考えるのであれば、長いトゲほど作るのにエネルギーも時間もかかります」
―ものすごくユニークな造形ですね…あんなにトゲトゲしい外見で、しかも殻そのものも重そうです。動画など拝見しましたが、この殻を背負って歩くだけでも貝にとっては一苦労なのではと思いましたが…
「ホネガイは砂地に住んでいて、砂に潜ることができます。ふしぎなんですけど、砂に潜るときに、あのトゲは貝にとって邪魔にはなっていないようなんですね。あのトゲはかなり鋭くて、人間が触っても痛いんです。でも生きるためにはあのトゲは有利に働く。というのは捕食者にとってあのトゲは威嚇になるんです。トゲが捕食者から貝自身を守っているんです」
―鋭いトゲが、実は、自らを脅かす外の世界から身を守ってくれている…何だか素敵なお話ですね。
「そうですね(笑)一見、人間から見れば、あんな長いトゲは邪魔で生きづらそうにも見えるけど、貝にとっては身を守る手段になっているであろうことが面白い」