検索サービス「ヤフー」を展開するZホールディングス(ZHD、証券コード4689)と、対話アプリのLINE(3938)が経営統合に向けて最終調整に入ったと伝わったのが11月14日だった。その後、18日に経営統合を発表。QRコード決済の利用者数を合計すれば国内でトップになるとか、両社のサービス利用者数を単純に合計すれば1億3000万人で日本の人口を上回るといったこともあり、「米国のアマゾンやグーグルにも対抗する巨大IT企業の誕生」といった報道も相次いだ。ただ、株式市場の反応は違った。
ある市場関係者は「報道が盛り上がり過ぎたのでは」と話していた。それはZHDや、同社の大株主であるソフトバンクグループ(SBG、9984)の株価に表れている。ZHD株は報道が伝わった14日こそ順調に買いが優勢だったが、この日に付けた459円が直近の高値になった。翌15日から売りがかさみ、20日には372円まで下落。報道後の上昇を1週間もたたずに帳消しにした。冷静になってみれば買いづらいというムードが、徐々に市場に浸透していったようだ。
SBG株については、ヤフーとLINEの統合を手掛かりに買いが入ったのは、ほとんど14日の寄り付きだけだった。その後は14日の始値である4373円を一貫して下回って推移している。SBGを巡っては、ZOZO(3092)への公開買い付け(TOB)が13日で終了したり、米シェアオフィス大手「ウィーワーク」を運営するウィーカンパニーへの出資比率引き上げたりと、いろいろ材料が交錯する中で、子会社再編をむしろ疎ましい材料と受け止めた可能性すら見て取れる。
LINE株だけは、現在でも14日の報道前を大きく上回る5100~5200円近辺で張り付いている。これはLINE株の7割強を持つ韓国のIT企業ネイバーと、SBGが共同でLINE株のTOBを実施して、LINE株を上場廃止にする方針を打ち出しているためだ。そのTOB価格としてネイバーとSBGが提案したのが5200円ということだ。ただLINEが言うには「価格の提案を受けた段階」だ。この価格は、どちらかというと引き上げられるのが通例だが、引き下げられない保証もない。
問題は「何のためにヤフーとLINEは経営統合が必要なのか」という点について、多くの投資家が納得していないということだろう。ZHDとLINEは発表資料に「日本およびグローバルにおける熾烈(しれつ)な競争を勝ち抜くことができる企業グループへと飛躍する」とうたう。ただ、額面通りには受け取られなかった。LINEの2019年12月期は、2期連続で連結最終赤字(国際会計基準)の見通し。同社は業績予想を開示していないが、アナリスト予想の平均は最終赤字が380億円程度と、赤字幅は前期の約10倍に膨らむ見込みだ。
先行投資が重荷になって身動きが取れなくなったLINEを、特に若い女性の間への浸透力が弱いヤフーが取り込もうとしている、という構図にも見えてくる。しかも赤字会社の割には高い買い物になるかもしれない。そのうえ、ZHDの川辺健太郎社長は18日の記者会見で否定したが、同社の経営判断を実質的な親会社であるSBGトップの孫正義氏が主導したとの報道もある。仮に報道が正しければ、赤字会社の買い入れによるZHDの株主価値の毀損を、大株主が少数株主に押し付けるという問題も浮かび上がってしまう。
そんなこんなで株式市場では、とても「米国のアマゾンやグーグルにも対抗する巨大IT企業の誕生」とはいえない、と冷静な見方が報道の直後から多かった。やや白けたムードが漂っていたともいえるかもしれない。いずれにしても、株価材料として「不発」だったのだ。ニュースに反応して、短期の値幅取りと割り切った買い以外は、ほとんど市場に買いが現れなかったのが今回の一連の動き、とまとめることができそうだ。
もっともヤフーの川辺社長も、LINEの出沢剛社長も、決済サービスの統合なども含めて「サービスのことは統合後に考える」と、18日の記者会見で繰り返し強調していた。今回は不発だったにしても、新たなサービスが大爆発する可能性は大いにある。両社とも国内で、ITやスマートフォンの中に新たな価値を見出した実績のある会社には違いない。半面、米ウィーカンパニーが突如として新規株式公開を断念したような、残念な方向に爆発するリスクも残る。結局、両社の経営統合後の姿はどうなるのか。何で稼ぐ会社になるのか。それがLINEの上場廃止でさらに分かりにくくなるのなら、SBGやZHDには一段と買いを入れづらくなる。