コシヒカリ先祖「幻の米」クラフトビールで復活 発祥の地、目指すは「完全地元産」

京都新聞社 京都新聞社
完成したクラフトビール「新次郎」。柔らかな苦みと飲みやすい口当たりに仕上げられている(向日市上植野町)
完成したクラフトビール「新次郎」。柔らかな苦みと飲みやすい口当たりに仕上げられている(向日市上植野町)

 京都府向日市物集女(もずめ)町発祥で、コシヒカリの先祖に当たる「旭米」を使ったクラフトビール「新次郎」が完成した。「幻の米」と呼ばれるほど生産が減少する中、住民らが団体を設立。各地で人気のクラフトビールに形を変えて、再興の願いを託した。近年は小学校で体験栽培が行われ、酒米として日本酒が醸造されるなど、発祥の地で関心が高まっている。

 「旭米」は、1908年に向日市の農家山本新次郎さんによって発見された。優れた品質で、全国で育てられた。ただ、粒がこぼれやすいため機械作業に向かず、旭米を起源にコシヒカリが生まれるなど品種改良が進んだこともあり、普及しなくなった。現在は流通されず、個人の売買か自家消費にとどまる。

 取り組んだのは酒店や市民でつくる「新次郎の会」。発祥のコメをもう一度全国に発信しようと、5月に設立した。クラフトビールが人気を呼ぶ中、コメを副原料にした製品を知り、計画。和歌山市の醸造所の協力で、農家から譲り受けた旭米5キロからビール約140リットルが完成した。

 10日に同市上植野町の飲食店であった試飲会で、完成したビール「新次郎」が初披露された。黄金色をした「ゴールデンエール」で、柔らかな口当たりと苦み、コメを思わせる甘みが後味に残るビールに仕上げられた。

 今後はほかの農家にも呼び掛けて旭米を確保し、ビールの生産量を増やす予定。将来は市内に醸造所を設け、完全な「向日市産」を目指す計画もある。新次郎の会代表梅原一成さん(48)=同市鶏冠井町=は「旭米の歴史を伝え、多くの人に愛されるビールになれば」と期待を寄せる。

 1本330ミリリットル、550円。梅原酒店=(933)4015=で。

≪旭米≫ 在来種の「神力米」と「日出米」が植えられていた境界で、強風の中でも残っていた1株から種子を取り出して、増産が進められた。悪天候に強く収量が多いことから、「日の出」よりも優れた「朝日」の意味を込めて名付けられた。地域も凶作から救われ、住民が功績をたたえたて建てた石碑が現在も残る。大正期に府が優良品種と認定したこともあり、1936年には全国の作付け面積の18%を占めるほどまで広がった。

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