1990年代から活動するバンド「サニーデイ・サービス」のボーカル/ギター、曽我部恵一が初めて俳優として出演した映画「アイムクレイジー」(工藤将亮監督)が、劇場公開されている。曽我部は主人公佑樹(古舘佑太郎)のバイト先の店長役で、工藤監督が最初から曽我部をイメージして台本を書いていたというキャラクターだ。音楽フェスの出演と舞台挨拶で大阪を訪れていた曽我部に、初めて映画で演技をした感想や、今後の音楽活動などについて聞いた。
ーまず、俳優としてのオファーが来たときはどう思いましたか?
「『へえ』って思いました。自分にそんな需要があるのかな、と」
ー映画に出ることに対して、躊躇いや戸惑いはありませんでしたか?
「全然ないです。まあどうせメインの役じゃないでしょうし、『あ、いいですよー』って」
ー撮影は2年ほど前ですね。工藤監督はサニーデイの「クリスマス」(2017年)という曲のミュージックビデオ(MV)も撮っていますが、順番は映画が先ですか。
「そうです」
ー工藤監督にMVを依頼したのは、一緒に映画を作る中で何か感じるものがあったのでしょうか。
「そうですね、工藤さんは映画のことにすごく詳しくて、好きな映画も自分と共通点がたくさんあったので、ぜひ撮ってもらいたいなと思ってお願いしました。シンプルに、一緒に仕事をした縁を次に繋げていけたらいいなという思いもありました」
ー「アイムクレイジー」は、世の中に嫌気が差した若いミュージシャンが主人公の物語です。曽我部さんは「若々しい映画」だとコメントされていました。
「第一印象は“まっすぐ”。本当に真面目な、情熱的な映画という印象です。仕事で撮ったとかではなくて、工藤さんが自分の全てを一本の映画にぶち込んだという感じがいいなあと思いました」
ー曽我部さんの出演シーンは、下北沢でご自身が営んでいるカフェバー/レコードストアの「CITY COUNTRY CITY」で撮影されていますね。
「はい。知っている場所なんで、逆に落ち着いて演技できました」
ー特に演技をしてるなという感じもなかったですが。
「え、本当ですか。いや、演技してる感じですね。監督も演出をがっつりやってくれたので。普段の僕のままだと、もっと愛想がなくて、淡々としていますよ。あの役は物分かりのいい優しい大人って感じ。そういう部分は、普段の僕にはそんなにないです」
ー若手のメンターって感じの佇まいが印象的でした。
「この映画ではね。普段、そういう意識は全然ないです」
ー実際にご自分の演技を見ていかがでしたか?
「正直言うと、本当に見てらんない(笑)。でも、あれで勉強になりました。実はその直後にもう1本出演オファーがあって、短編映画に出たんですよ。そちらに関しては、『アイムクレイジー』で1回経験した後なので、自分なりに恥ずかしくない演技ができたと思います」
ーその短編の後、他にもオファーはあるんですか?
「今年6月に劇団ロロの舞台に出ました。先日公開された川本真琴と峯田和伸の『新しい友達Ⅱ』のMVにも出てます。お芝居するの、すっごい楽しいですよ」
ー「アイムクレイジー」まではそういう依頼は全然なかった?
「1回もなかったです。僕がお芝居をやるなんて誰も思っていなかったでしょうし、そもそも自分でも思っていなかったですから」
「僕は音楽を生業としていますが、どんな仕事も、依頼されればできる限りやってみたいと思っています。一生のうち、どれくらい仕事ができるかわかんないのに、音楽という枠だけにとどめておくのはもったいない。可能性があるんだったら、何でもやりたいですね。無責任な考え方かもしれないけど」