「息子2人の舞台を、父が演出する。恥ずかしくて仕方がないですよ」
「『柄本家のゴドー』どころか、柄本家の恥」
「こんなの(映画にして)出しちゃダメ。みっともない」
「でもこういうことになっちゃって…哀しくて笑えるよね」
俳優の柄本明さんが6日夜、神戸の元町映画館であった映画「柄本家のゴドー」の公開記念トークショーに登場した。この作品は、柄本さんの息子である柄本佑さん・時生さん兄弟が、不条理演劇の代表作である「ゴドーを待ちながら」に、父を演出に迎えて挑戦する様子を記録したドキュメンタリー。柄本さんはぶっきらぼうな口調ながら、時折笑顔を交えて作品に対する思いや演技論などをざっくばらんに語り、立ち見も出た会場を魅了した。その一部を紹介しよう。
「俳優の仕事は他人様が書いた台詞を言うこと。でも他人が書いたことなんてわからないし、ましてや(『ゴドーを待ちながら』を書いた)ベケットは外国人。わかりませんよお」
「他人が書いた台詞って、言えないですよ。僕なんか今でもそうですけど、俳優をやってても、ああやっぱり台詞って言えないなあってことに気づくだけ。台詞って難しいもんです」
「台詞と格闘する人間を俳優と呼ぶ。お客さんはその“事情”を見にくるのでは」
「演技に正解はない。でも人間はバカだから(正解を見つけて)安心したい。そこらへんが面白いんじゃないですか」
「俳優は人前で泣いたりするんですよ。恥ずかしいよお」
「(心の)どこかでこういう仕事が嫌い」
「演出をしても、『人を動かす』ことなんてできないとわかるだけ」
「若い頃はベケットをわからなくちゃいけないと思っていた。意味もわからずベケットの全集を買い、それを抱えて演劇人の溜まり場になっている新宿の喫茶店に行ったりもした。でも本当は何もわからなかった」
「2000年に自分が『ゴドーを待ちながら』を演じた時も、やっぱりわからない。でもさ、わからないということがわかって、涙が出てきてさ。あれは『こんにちは、さよなら』の話なんだよ。ゴドーはわからないからいい」
「(逆に)テレビの連続ドラマって、わかりやすくてわからないでしょ。え、こんなこと言わないよっていう台詞も(俳優は)言わなくちゃいけない。難しいよお。まあそんときに考えるのは、契約。契約でここへ来て、これを言えば家に帰れると。まあそうやって生きてますね!」