竹でできた「どこでも茶室」で一服いかが 百貨店や無人駅で茶を点てる禅僧「不完全は美しい」

京都新聞社 京都新聞社

 竹で仕切った空間を茶室に見立て、山や海、あるいは百貨店の雑踏の中で茶会を催す禅僧がいる。「自然や人との出会い、五感でその場の空気を感じてほしい」と願い、人や場所との物語を紡ぐ。真夏の昼下がり、渓谷を走る観光トロッコ列車の無人駅で開かれた茶会を訪ねた。

 ジージーとせみ時雨が耳底に響く。立っているだけでも、じっとりと粘度を増した汗が噴き出る。梅雨明けの熱暑の中、京都市西京区のトロッコ保津峡駅ホームに竹の茶室「帰庵[きあん]」が組み立てられた。細めのメダケやマダケのパーツ27本を手際良く差し込んでいく。柱や屋根はあるが、天井も壁もない。保津川をはさんで対岸の山並みを背景に切り取る。

 「お茶を介した人や自然との出会いを楽しみたい」。「帰庵」は、大徳寺大慈院の戸田惺山住職(51)と数寄屋建築を手がける山中工務店(北区)の稲井田将行取締役本部長(43)のシンプルな思いからスタートした。実用性にこだわり、持ち運びができるようにと試行錯誤を重ねた結果が軽くて丈夫な竹の茶室だった。3メートル四方のスペースがあれば、どこでも茶室にできる。「茶室としては不完全だが、不完全を美しいと思う心を感じることができる」。雪山で、波打ち寄せる絶景で、廃校となった小学校の満開の桜の下で、パリのエッフェル塔の前で、この4年間に80回以上の出会いを重ねてきた。

 組み立てから15分。「在釜」の小さな旗がひらめき、茶会の始まりを告げた。この日の正客は、嵯峨野観光鉄道の井上敬章社長(60)だ。アウトドア用のコンロの上に釜を置き、湯が沸くのを待ちながら話が交わされる。

 「無人駅は非日常的空間。ロマンがありますね」。戸田住職が語りかけると、井上社長は「鉄道の使命を感じる。駅一つ、線路一つなくすことは、地元の方にとっては、心がなくなるようなものだと感じている」。祖父から3代続く鉄道マンの誇りや、駅にまつわる物語を話し始めた。

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