「女人禁制」山修行で生まれる感謝の念 性別格差撤廃の風潮でも廃れない理由

北村 守康 北村 守康

 「男女共同参画」「ジェンダーフリー」が分からなくとも、性別格差を無くそうとする風潮は万人が感じ取っているはず。そんな現代社会にあって、女人禁制を崇める場所がある。奈良県天川村の大峯山は、約1300年前に役小角(えんのおずぬ)が開いたと伝承される修験道の聖地だ。山に籠って修行する修験道の一端が体験できる「山伏修行一日入門」という“体験型ツアー”があると知り、さっそく参加してみた。

  7月某日の午後、天川村洞川(どろがわ)温泉の観光案内所で受付を済ませ、指定の旅館にチェックインした。この体験型ツアーを簡単に説明すると、午前2時前から暗闇のなか登山を開始。行場での修行を体験しながら、明け方には山頂(山上ヶ岳1719m)付近にある大峯山寺に到着。そこでお経を上げて下山するという往復約12キロ、約9時間の登山コースだ。しかし、これがレジャーではなく修行であることは、旅館に到着してからまざまざと思い知らされた。

 まずは参加者の表情と立ち居振る舞い。部屋は大部屋で、チェックインした人から自分の場所を陣取る。19名の参加者のうち三人組が一組、それ以外は単独での参加。浮かれた表情は三人組だけで、それ以外の人たちは誰とも会話することなく、これから始まる厳かな儀式を緊張した面持ちで静かに待っていた。写真を撮るどころか、カメラをカバンから出すのもはばかれる雰囲気で、この修行体験での出来事を多くカメラに収めようという思惑はさっそく消えた。

 参加者全員が揃ったところで、白いフンドシが用意され、着替えるよう促された。旅館から徒歩数分のところにある龍泉寺での水行のためだ。梅雨の蒸し暑い季節だが、洞川温泉は標高820メートル余りのところに位置し、大阪平野や奈良盆地よりも10℃近く気温が低く、空気も爽やか。境内にある水行場の池に入り、肩まで浸かって「半(はん)か座」というあぐらに似た姿勢で座る。その冷たさで背筋から頭のてっぺんまで凍りつき、一瞬意識を失うような感覚に陥る。

  「めちゃくちゃ冷たい水やからアカンと思ったら、無理せんと立ち上がってください。せやけど、それでは行(ぎょう)にならんので困るんやけど」と浸かる前に“途中で上がるな”と暗に釘を刺される。最初の30秒は冷たさで気絶しそうになったが、1分2分と時間が経つにつれ不思議と体が慣れていく。般若心経を含め3つのお経を上げたので、少なくとも5分は浸かっていたと思う。さすがに最後のほうは「まだか? まだか?」と徐々に意識が遠のいていくようだった。

 その後、風呂で温まり、精進料理の夕食。下山するまでは肉、魚は口にできない。写真映えする精進料理を撮りたいところだが、写真を撮れる空気ではない。みんな無言で料理を口に運ぶ。食後、午後7時には多く人が布団に入っていた。午前1時起床に備えてのことだ。私は食後、洞川の温泉街を散歩して8時過ぎに布団に入ったが、強烈な音量でイビキをかく人が2名いて、まるでウシガエルの合唱。結局一睡もできなかった。誰か一人ぐらい苦情を言いそうなものだが、水行で身を清めた後だからなのか、誰一人として文句を言う者はいなかった。おそらく多くの人が寝不足のまま起床時間を迎えたと思う。

 午前2時前、漆黒の闇の中、懐中電灯で足元を照らしながら女人結界の門をくぐり、1719mの山上ヶ岳山頂付近にある大峯山寺をめざした。登山ガイドを先頭に、自前の白装束をまとったベテラン参加者たちが最後尾を歩く。まるで軍隊の移動。早いペースで黙々と傾斜を進む。ペースが落ちることは決してない。弱音を吐く者は誰一人おらず、ガイドからのコース説明は何もない。改めて山歩きツアーでないことを痛感し、一生一度の山修行だと腹をくくった。

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