脱毛症や抗がん剤治療などで髪の毛が抜けても、今まで通り自然に過ごしたい―。そんな願いを叶える医療用ウィッグがどんどん進化しています。これまで難しかったうなじや生え際、分け目なども自然に見せたり、肌に刺激の少ないオーガニックコットンの生地を使ったりする商品も登場。そんなウィッグを使い、7年ぶりのポニーテールや、憧れのアップスタイルに挑戦した女性に話を聞きました。
全身性の脱毛症に悩む東京都の会社員ななみさん(仮名、36歳)は6月、医療用ウィッグメーカー「グローウィング」(大阪市)が大阪市内で開いた撮影会に臨みました。
ななみさんが異変を感じたのは13~14年前。髪をかき上げたとき、後頭部の髪が10円玉大ぐらいの大きさで抜け落ちていることに気付きました。皮膚科での診断は円形脱毛症。ただ、当時少しストレスを抱えていたこともあり、「一時的なものだろう」とあまり深刻には考えていなかったといいます。実際、すぐに新しい毛が生え始めましたが、翌年の秋になったら抜けてしまい、以降、生えては抜けての繰り返し。多発性や蛇行性の脱毛症とされ、鍼治療も効果なく、医師には「免疫の異常が原因だろう」と言われました。
ななみさんは、残っている髪の毛で抜けた部分を隠したり、白髪隠しのファンデーションを塗ってごまかしたりしていましたが、2年ほど前からは抜け毛が直径10センチぐらいに広がり、もみあげもなくなってしまいました。さらに昨年秋からは残っていた部分まで一気に抜け落ち、年明けには「まつ毛も眉毛も含め、全身の毛が抜けてしまった。ただただ怖くて、たまらなかった」といいます。
もともと活動的な性格で、脱毛症になる前はベリーショートの髪型なども楽しんでいました。ですが、発症してからはうなじやもみあげを隠すため、髪を伸ばし、下の方で結ぶように。ウィッグが必要になってからは、オーダーメードは高額なため、ネット通販で手頃な商品を購入しましたが、サイズが合いません。髪質も地毛と全く違い、自分で分厚い裏地を縫って頭の形に合わせ、髪を抜いて量を減らし、自然に見えるように調節しました。
通勤の際にはビル風が吹くたびに頭を必死で抑え、オフィスではウィッグがずれるのが怖くて腕も上げられず、休憩時間をずらしてトイレにこもって直す日々。「いつも帽子を被っている感じ。ずれないかバレないか、人の視線がずっと不安で落ち着かず、仕事を辞めることも考えた」と打ち明けます。趣味のジョギングやヨガも難しくなり、温泉もゆっくりつかれない。外出や人前に出ることすら怖くなりました。
今回、ネットでモデル募集を知り、すぐに応募。撮影会では人毛で自然な生え際やうなじにこだわり、医療用テープで肌に直接装着するウィッグを着け、7年ぶりにポニーテールを結い、屋外でも撮影しました。強い風が吹いていましたが、「風を感じる。うわー、すごい…」とポツリ。不思議そうに髪を耳に掛け「全然、怖くないです!」と笑顔を見せると「次は、思いっきり走りたいです」と声を弾ませました。