もともと頭髪の量は多い方だったというはなさん(仮名、40代)は、産後、激しい抜け毛に悩まされるようになった。特に2人目を産んだ今年1月以降、症状はさらに悪化していったという。
「ホルモンのバランスなのかストレスなのか、原因はよくわかりませんが、お風呂でズボッと抜けたり、朝起きたら枕に大量の毛が付いていたりが日常茶飯事。1人目を産んだ後に何カ所かできた抜け毛の部分がどんどん広がっていったので、今では外出するときに帽子が手放せないほどです」
抗がん剤治療や脱毛症によって髪を失った女性のための医療用部分ウィッグ。一般的な部分ウィッグは、加齢による薄毛を対象に、ボリュームアップを目的とする人工毛のものが主流だが、近年は比較的若い利用者のニーズを反映した「ボリュームを出さず、地毛と自然に馴染む」、そんな部分ウィッグが注目されているという。
医療用ウィッグ専門店「ワンステップ」を運営するグローウィング(大阪市)は「ボリュームを出さない部分ウィッグ」の開発に力を入れている。肌に馴染むオーガニックコットンと、自然に見える人毛を使用しているのが同社のウィッグの大きな特長。当事者をモデルにした同社の撮影会が大阪市内であると聞き、訪ねてみた。
参加したのは、冒頭のはなさんと、りんごさん(仮名、50代)の2人。りんごさんは2年ほど前から薄毛が気になり始め、増毛や植毛、鍼治療などを検討する中で、部分ウィッグの装着を選んだ。実はこれまで他社の商品を使っていたが、毛量が多く、装着すると少し不自然に見えていたため、同社の商品を試すことにしたという。
実際に装着したりんごさんは「軽くて着けている気がしませんね」と大喜び。「つむじの部分もとても自然で、上から見られても安心なので、電車などで前に立っている人がいても気にせず座れそうです」と笑顔を見せた。
同社によると、円形脱毛症に悩む若い世代は、部分ウィッグの特長である「ボリューム」や「パーマ」をそもそも求めていないという。担当者は「彼女たちが求めているのは、『いかに自然に見え、地毛と馴染ませることができるか』です」と説明する。
2人はこの日の撮影会で、分け目やつむじまで忠実に再現した部分ウィッグを装着し、スタイリストによるヘアアレンジも体験。はなさんは「『そうそう、自分ってこんな髪だったな』と以前の感覚を取り戻せたようで嬉しい。職場復帰も恥ずかしくてどうしようかと悩んでいましたが、これなら以前のように髪のことは気にせず働けそうです」と喜んでいた。
日本皮膚科学会のサイトなどによると、円形脱毛症の頻度は人口の1~2%程度と推測され、15歳以下で発症するケースが4分の1を占めるという。はなさんのように、産後の抜け毛に悩む女性も少なくない。同社は「こうした活動を通してウィッグの意義を広く知っていただき、若い世代のウィッグに対する抵抗感や固定観念の払拭につながれば」と期待する。