「ドネーションのために髪を伸ばしている次男、保育園等で『女の子なの?』と聞かれても平然と無視し、髪は切らないと断言する。『みんながそうやって言ってる間に、僕ちゃんは髪伸ばすだけで人を救っちゃうから。わかってもらえなくてもいいの、ヒーローってそういうもんでしょ!』と。背中がデカいぜ。」
保育園に通う5歳の次男くんについて投稿した風間暁(@k6rm6)さん。ツイートには、周りの反応を気にせず己を貫く次男くんに「マジモンのヒーローやな」「カッコいい!!」と称賛する声や、「私はあと1年くらいがんばってみます」と一緒に頑張ろうというコメントが寄せられ4.5万以上の“いいね”がつきました。
ヘアドネーションは、小児がんなどの病気の治療や先天性の脱毛症などで頭髪に悩む18歳以下の子どもに無償でウィッグ(かつら)を提供する活動です。できるだけ自然なウィッグになるように、人の髪をつかい、ひとりひとりの頭のサイズにあわせて制作されます。
風間さんの次男くんは、ヘアドネーションのために約2年前から髪を伸ばしています。つまり3歳の頃に、誰かのために髪をのばすという選択をしたことに。風間さんの仕事や活動の関係から、周りにヘアドネーションをしている友人が多くいるそう。そのため、次男くんにとって身近な活動だったようです。
現在、次男くんの髪はもうすぐ腰というところまで伸びていて、普段は結んですごしているそう。風間さんに聞きました。
──ヘアドネーションに必要な31センチ以上の長さまでのばすには、夏は暑いですし、洗髪やドライヤーなど大変です。ですが、そんな現実的なこととは違う大変さがあるのですね。
大変なことは、周囲のジェンダーロールやルッキズムを土台にした声に、私がモヤモヤすることぐらいです。「女の子みたい〜!」と言われると、私が「なぜ髪が長いだけで女の子みたいになるのだろう」と思ってしまうんですよね。
──「女の子のショートは良くて男のロングはおかしいと言う発想がおかしい」「男の子のヘアドネーションばかりニュースに取り上げられるのおかしい‼男も女も当たり前になれば良い!」などのコメントにもハッとしました。ツイートされているように、次男くんは「女の子なの?」と言われても気にしていないのかしら?
強がってみても、何も思わないってことはないと思うんですよ。それに、えてしてヒーローは特有の孤独や葛藤を抱えるものだと思うし。だから、次男への激励の声が多かったのはシンプルに嬉しかったです。
次男にも共有して「かっこいいってさ!」と伝えると、「別に…当たり前のことしてるだけだから」と、ニヤニヤしながら言っていましたよ。
──次男くんが、ヒーローとしてイメージするのは具体的にだれなのでしょう?
私の友人たちだと思います。彼にとってはヒーローなんだと思う。
──尊敬できるヒーローが周りにいるのですね。お兄ちゃんは、次男くんのヘアドネーションについてなにか言いますか?
長男は我関せずですね。今試しに聞いてみたら「次男がそうしたいならそうすればいいんじゃないって感じ、僕は僕のやりたいようにやるから。人それぞれ違っていいでしょ」と言われました。
──なるほど。
私たち家族の中では、人の容姿にとやかく言わないってのは当たり前のことです。褒めるにしても、その人が自分で選択したメイク方法やヘアスタイルを褒めるのと、体型や顔の造形を褒めるのとでは、大きく質が違うと思っています。(前者はその人の内面を褒めており、後者は選択の余地があまりない外見だけを褒めているので)
そういったルッキズムの問題と、「髪を伸ばすのは女の子」というジェンダーロールの問題が複雑に絡み合って、男の子が髪を伸ばすと女の子扱いされやすいのでしょうね。とても悲しいことだと思います。ヘアドネーション以前に、男子には頭髪を伸ばす自由が与えられていないようなものですからね。なので、かっこいいと言ってもらえると勇気づけられますよ。それによって「男の子が伸ばしたっていいじゃん」という風潮がつくられていけばなによりです。
白髪やパーマヘアも寄付できる? NPO法人に聞きました
筆者はヘアドネーションを調べるまで、白髪があったりカラーリングした髪は寄付できないのだと思い込んでいました。実際は、よほど傷んでいていない限りほとんどの髪が寄付可能だというNPO法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・ジャーダック)の広報さんに聞きました。
──ヘアドネーションの活動を行う団体はいくつかあるようですが、カラーリングや白髪があってもOKというのは共通ですか?
他の団体さまの詳細な規約を全て把握しているわけではございませんが、寄付できる髪色に条件のある団体もあるようです。
当団体では寄付された毛髪にトリートメント処理を施し、1つのウィッグとして自然に馴染むように髪質や髪色を均質化する加工を行います。そのため、軽く引っ張って切れてしまうようなハイダメージの髪以外は、白髪、カラーやブリーチ、パーマヘアも全てお受け取りしてウィッグとして役立てております。
──それなら寄付できるという人も多くありそうです。今回、ヘアドネーションのために髪を伸ばす男の子に関するツイートが話題になりました。
ここ数年、男性からのヘアドネーションが徐々に増えていますが、今回の風間さまのツイートにもあるように、男の子が髪を伸ばすことで心ない言葉を投げかけられたり偏見を感じることも多いと思います。それは、実は髪の毛がない多くの子どもたちが日々感じている「生きづらさ」の裏返しなのではないでしょうか。
私たちはヘアドネーション活動を通じて、そうした生きづらさを少しでも解消できればいいなと思っています。ジェンダーに関わらず誰がどんな髪型でもいいし、ウィッグをつける時もつけない時も自由に気兼ねなしに選択できて、みんなが心地よく過ごせるような社会になるためにヘアドネーションが貢献できれば嬉しく思います。
◇ ◇
ヘアドネーションのために髪を伸ばす自由は、病気で悩む子どもだけでなく、もっと多くの人を開放する道にもなるのかもしれませんね。
※JHD&Cによると、現在ウィッグを待つ子どもは300人以上。ウィッグ1体をつくるためには、30人から50人分のヘアドネーションが必要です。
■NPO法人Japan Hair Donation & Charity(JHD&C・ジャーダック) https://www.jhdac.org/