フェイスブックの仮想通貨「リブラ」に各国政府が動揺する理由

山本 学 山本 学

 ところで国内ですでに普及している、リブラとよく似た仕組みは「電子マネー」だ。スイカやイコカといった交通系、ワオンやナナコに楽天エディといった流通系など、多くの電子マネーと同様に、現金を入金することで特定の店舗(おそらくリブラの場合はネット上の店舗)での買い物に使えるようになるからだ。ただし電子マネーのようにカードで持ち出して、外出先で使えるようになるかは微妙だ。主にネット通販だけでの決済手段になることを考えれば、日本でリブラが登場することの意味はあまりない。

 しかしリブラを提唱しているのは、世界に27億人のユーザーを抱えるSNS超大手のフェイスブックだということに注目する必要がある。現金と交換してリブラを受け取る人だけでなく、物の販売やサービスの提供を通じてリブラを受け取りたいと思う人が世界中には、たくさんいるだろう。たとえば自国通貨が安定しないうえに、ドルへの接触も厳しく制限されているような途上国に住む人にとっては、スマートフォンさえ手元にあればリブラの向こうにドルが見えるはずだ。

 そう考えると、われわれ日本の個人が普通に使うような少額のネット通販だけでなく、たとえば国境を超えた穀物の仕入れといった大きな取引にリブラを使いたい、と思う会社が現れてもおかしくない。国が発行する従来型のお金は動かないまま、大きな取引がリブラを通じて行われるのなら、各国の通貨当局は脱税や闇社会によるマネーロンダリング(資金洗浄)を監視する方法を、根本的に改めなくてはならないだろう。各国政府がリブラの登場に、ピリピリと神経をとがらせるのはこのためだ。

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