「癒しの宿」で客を癒す招き猫のこゆき 野良猫から“支配人”にまで出世

九州温泉ねこめぐり

西松 宏 西松 宏

 山田さんや従業員たちと、こゆきとの絆がさらに強まったのは3年前の熊本・大分地震だった。建物の床がはがれ、温泉施設もひび割れが入るなどの被害を受けた。こゆきは激しい揺れに驚き、宿を飛び出してしばらく行方不明になった。

 「もちろん営業はできず、従業員全員でこゆきを探しましたが見つからず、避難もしなければならなくて、もう心配で心配で…。本震から2週間が経ち、諦めかけていたころ、どこからか戻ってきたんです。そのときは『無事で本当によかった』と、私も従業員もみんなで泣き、グループ全店にも報告しました」(山田さん)

 その後、こゆきは「支配人」に就任。山田さんの猫アレルギーも、毎日こゆきの世話をするうちに、症状がほとんど出なくなったそうだ。ちなみに同宿では、予約段階で宿泊客にアレルギーがないか、猫がいるが大丈夫かを確認し、猫が苦手な人に対しては、こゆきを館内の部屋から出さないなどの措置を講じて配慮している。こゆきは毎日の朝礼に参加。「今日は猫NGのお客様がくる」という日は、不思議と部屋から出てこないという。

 宿のロビーには、アップライトピアノがあり、ほぼ毎夕、従業員でピアニストの東島卓土さん(27)によるミニコンサートが行われる。「お客さんの前で僕がピアノを弾き始めると、ちょうど曲が盛り上がっているくらいのときに登場して、人気を全部さらって独り占めするときもあります(笑)。ピアノの音色は嫌いじゃないようで、クラシックを弾くとよく横で聴きながら気持ちよさそうに寝ています」(東島さん)

 今年のGWから、敷地内に「ペットと泊まれる部屋」、「赤ちゃんに優しい部屋」を各2部屋ずつ新設。ペットや幼い子ども連れの家族も楽しめるようになった。山田さんは「私たちのモットーは笑顔と心のおもてなし。こゆきは、その思いを共有する同志です。マイペースですが、そばにいてくれると頼もしいかぎり。これからもずっと元気でいてほしいです」と微笑んだ。

癒しの宿 鷹勝 大分県由布市湯布院町湯平791 電話0977−86−2828

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