挿絵から飛び出してきた? そっくりな黒猫が美術館の「お庭番」に

岡部 充代 岡部 充代

 

 美術館に行く目的は、そこに展示されている美術品を鑑賞すること。それが普通ですが、岡山には、違う目的でも足を運ぶ人たちがいる美術館があります。同県出身で大正ロマンを代表する画家、竹久夢二の作品を3000点以上所蔵し、常時100点以上を展示する「夢二郷土美術館」には、たくさんの“猫好き”が集まっているとか…。

 

 ビロードのように艶やかな黒毛。黄色の瞳。肉球まで黒い黒猫「黑の助」は、16年12月から同館の「お庭番」を務めています(館長から正式な辞令も受けました!)。看板犬や看板猫のいる施設、その犬や猫が何かしらのお役目を持っている施設は他にもありますが、黑の助が全国ネットのテレビ番組に取り上げられるほど注目されるのは、夢二が挿絵に描いた猫にそっくりだからです。

「夢二が子供たちに向けて描いた猫の挿絵を木版画におこして制作した『猫』という豆本(版元:夢二郷土美術館)があるのですが、その中にある赤いリボンを付けた黒猫に、黑の助はそっくりなんです。黑の助を見ていると、夢二が猫の特徴を実によくとらえていると、改めて気づかされました」

 そう話してくれたのは、館長代理で学芸員の小嶋ひろみさんです。

 

 同館と黑の助の出会いは、夢二の命日(9月1日)を目前にした16年8月末にさかのぼります。職員の一人が出勤途中に、交差点の真ん中で車に轢かれそうになっている子猫を拾ってきました。当初は里親を探すことも検討されましたが、美術館の中庭を気に入り、職員をお出迎えしたり、来館者と遊んだり、たちまちアイドル的存在になった黑の助を見て、小嶋光信館長が「お庭番」に任命することを決めたのです。

 実はこの館長、和歌山電鐵の「たま駅長」を任命した人物でもあります。「もともと館長は“犬派”だったのですが、夢二の描いた猫を見て、猫は人間に非常に近い存在だと感じたようです。夢二生誕120年記念の企画展(2004~2005年)で猫をサブテーマにしたのは、夢二の魅力を次世代に伝えるためにも、子供たちに興味を持ってもらえるようにと考えたから。それが“たま駅長”の発想につながり、たまちゃんと触れ合う中で、さらに猫の素晴らしさを知った。黑の助をお庭番に任命するという発想は自然だったのだと思います」(小嶋館長代理)

 館長が意図した通り、黑の助のお庭番就任以来、来館者の年齢層が広がり、外国人観光客も増えたと言います。

「黑の助が世代を超えて、国境も越えて、夢二の魅力を広めてくれています。美術と人をつなぐ役目をしてくれていますね」(小嶋館長代理)

 黑の助効果はそれだけではありません。2017年には岡山出身のデザイナー・水戸岡鋭治氏によりキャラクターがデザインされ、館内ショップではグッズも大人気。また、そのキャラクターが全面に描かれたラッピングバス(車内も黑の助だらけ!)が岡山市内を走り、町に楽しさを生み出すと同時に、宣伝・集客にも一役買っています。ゴールデンウイーク中には、閉館後に貸し切り、学芸員の解説付きで鑑賞できる「宵の夢二特別鑑賞ツアー」が開催され好評だったのですが、黑の助と写真撮影できることに引かれて参加した人も少なくなかったような…。

「黑の助をきっかけに夢二のことを知ってもらい、楽しんでいただければ。私たち職員も癒されていますし、本当に来てくれて良かった。『夢二の生まれ変わりじゃないか』なんて言われることもあるんですが、たしかに女性に優しいところは似ているかもしれませんね(笑)」(小嶋館長代理)

 黑の助は“気まぐれに”出勤しているそうです。会いたい方は、SNSで発信される出勤状況の確認をお忘れなく。

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