戦国時代の城で大流行の石垣技法が海外進出 自然さと耐久性に注目、継承者に受注舞い込む

京都新聞社 京都新聞社
米オレゴン州の日本庭園で現地の石工と石垣を建造した(2016年)
米オレゴン州の日本庭園で現地の石工と石垣を建造した(2016年)

 比叡山の麓にある大津市穴太(あのう)地区で戦国時代に栄え、全国の城の石垣に使われた石積みの伝統工法「穴太衆積み」が、活動の場を米国など海外に広げている。自然に近い状態の石を、コンクリートなどで固定するのではなく、積み上げるだけで高い耐久性を実現する技術が「驚くべき技だ」と評価されている。

 「これで崩れないのか」。2010年1月、米カリフォルニア州のベンチュラで行われた石積み技法のワークショップで、現地の職人が驚きの声を上げた。穴太衆積みを唯一継承する「第15代穴太衆頭(かしら)」の粟田純徳さん(50)=大津市=が、自然の石の形に合わせて高さ4メートルの石垣を積み上げた時だった。

 欧米では整形した石をコンクリートで固定するのが一般的で、粟田さんのような技法は経験がない。米国の職人から「耐久性は大丈夫か」と質問が相次いだ。粟田さんは、コンクリートを使わなくても、石の積み方で振動や圧力を分散させられると説明。実際、地震の多い日本で数百年間も風雪に耐えてきたと伝えると、米国の職人たちは納得した様子だったという。14年にも、ワシントン州シアトルでのワークショップで技術を披露した。

 ワークショップを開いたのは、約300人の米国人職人らでつくる団体「The Stone Foundation」。歴史ある石の建築物の保存や、魅力の普及に取り組んでいる。

 米国で粟田さんと作業を4回ともにした石工カイル・シュラーゲンハウフさん(50)は「加工しない石を使うシンプルさと耐久性を生む複雑な構造が魅力だ」と称賛し、「将来は日本の城の石垣修復を粟田さんとやりたい」と思い描く。

 粟田さんによると、近年、海外から石垣を受注するケースが出てきた。
 16年、米国オレゴン州の日本庭園「ポートランド・ジャパニーズガーデン」で高さ5・6メートル、全長56メートルの石垣を手掛けた。穴太衆積みの美しく堅牢(けんろう)な構造が評価され、17年にはテキサス州ダラスにあるスイスの時計メーカー、ロレックスの米国支社で、建築家・隈研吾さんが設計した「ダラス・ロレックスタワー」の外構部分に石垣を築いた。

 欧米では整形した石の造形美が好まれるというが、粟田さんは「現地で一緒に仕事をした外国人は、技術の高さから生まれる耐久性を備えた穴太衆積みの方がいいと言ってくれる」と自信をのぞかせる。

 粟田さんが社長を務める「粟田建設」の文化財の石垣修復などの国内の受注は、ゼネコンとの争いで減っている。苦境の中だが、技術を絶やさないようにと海外での技術伝承を惜しまない。「会社として利益は大事ですが、それよりも伝統の技を多くの人に知ってもらいたい」と話す。海外で注目が集まり、評価を受けることで「日本に逆輸入されるようになれば」と話す。

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