島根県松江市内の畳店がSNSに投稿した、畳を軽トラックに積み込む何気ない動画がじわりと注目を集めている。8月21日時点で9万6千回再生され「すごい」「職人だ」といったコメントが寄せられた。話題の畳店を訪ねた。
業界特有の結び方
動画は畳を受注生産する創業75年の竹内畳店(松江市石橋町)が2021年4月に投稿した。従業員らしき男性が軽トラの荷台に畳を積み込む際、畳をロープで固定する様子が映され、テロップでは「畳積みのプロ」「結び方にコツがある」と説明がある。荷崩れしないよう、固結びをしている模様だ。
リプライ欄ではこの結び方が注目を集め「南京(なんきん、という結び方)ですね!」「この結び方、教えてもできない人が多いんだな~」「教わったけど、結局最後までできなかった(笑)スゴイ!」と盛り上がった。同業者とおぼしき人からのコメントもあり、業界では有名ながら、難しく特殊な結び方のよう。主にそれを知る人から注目を集め、多く再生されているようだ。
「何でもいいから」で投稿
思わぬ脚光に畳店4代目の竹内雅哉さん(32)は「目立とうと思ってやったことではなく、不思議に思った」と戸惑う。
畳店のインスタグラムは約8年前に開設したが、使い方があまり分からず、更新されないままになっていた。活用方法をさまざまな人に聞く中で「何でもいいからまず投稿してみては」と助言を受け、動画の練習がてら撮影し投稿したものだという。映っているのは弟の尚弘さん(26)で、雅哉さんの妻が「結び方が珍しい」と興味を示したことで投稿した。
投稿してから数週間たち、知り合いに「あなたのところの動画、すごい再生されているね」と言われ、初めて気付いたという。普段は畳や障子を展示するギャラリーや網戸張りといった業務風景、何気ない日常生活の動画を投稿していて、再生回数は多い時で1000~2500回。固結びの動画はいまだに伸び続けており、竹内さんは「建築業界や農家から見たら普通のことだが、それ以外の人にとっては珍しいのかもしれない」と驚いた。
どんな結び方?記者が試してみると…
竹内さんによると動画の結び方は南京結び、トラック結びといった呼称があり、積み荷の大きさや形状によって5種類ほどの結び方を使い分ける。いずれの結び方も積み荷を固定するのには必須で「ちゃんと縛れば高速道路を走っても全く緩まない」(竹内さん)という。
動画で注目を集めた南京結びはどれほど難しいのか。竹内さんと、3代目社長の政治さん(55)、先代で会長の昭雄さん(80)の3代にわたって記者が手ほどきを受け、南京結びを体験してみた。
政治さんが手本として結ぶ際は10秒とたたずにこなすが、記者は何度説明され、目の前でやって見せられても、結び方を理解することができなかった。見かねた昭雄さんにもう一段階簡単な固結びを伝授してもらい、なんとか形にすることはできた。雅哉さんに「これは明日には忘れますね」と笑われたが、恐らくその通りだ。
皆さんに「慣れれば当たり前にできる」とは言われたが、ここまでこつをつかむのが難しいとは思わなかった。業務の一環とはいえ、畳の製造に関する部分以外でも、職人の技術の高さを感じた。
動画が注目されたことで、ギャラリーや畳の投稿を見た若い世代からの受注も増えた。ただ、竹内雅哉さんは「何が注目されるのか自分では全く分からないので、こちらから注目を狙うことはしない」と断言する。インスタグラムはあくまで広報の一手段とし、これまで通り粛々と日々の受注をこなす考えだという。
竹内畳店は畳の受注生産のほか、ふすまや網戸、障子の張り替えにも対応する。受注はインスタグラムでも受け付ける。アカウントは@takeuchi_tatami.shimane。