「ピース」「コロナ」…懐かしのたばこ石版、大量発見の謎 どうして芸術大学の倉庫で?

樺山 聡 樺山 聡
大学の倉庫から見つかった大量の石版を調査する研究者ら(京都市西京区・市立芸術大)=田中准教授提供
大学の倉庫から見つかった大量の石版を調査する研究者ら(京都市西京区・市立芸術大)=田中准教授提供

 たばこのパッケージを印刷するための石版約340点が、なぜか京都市立芸術大(西京区)の倉庫で見つかった。明治後期から昭和40年代にかけて印刷工場で使われたとみられる「ピース」や「コロナ」といった懐かしの銘柄デザインがある。ここまで大量の石版が見つかるのは珍しく、日本の印刷史を考える上で貴重な資料という。それにしても、どうして石版群は印刷工場から大学に渡ったのか。謎が広がっている。

 見つかった石版は、縦約30~45センチ、横約30~25センチ、厚さ約10センチ。銘柄は「チェリー」や「いこい」「敷島」「新生」「ゴールデンバット」など約30種類がある。

 「驚きましたよ」。倉庫で石版群を確認した一人、市立芸大の田中栄子准教授(リトグラフ研究)はそう振り返る。石版画を次代につなぐ活動に取り組んできた田中准教授やアーティストの衣川泰典さん(41)らが、大学に保管されているうわさを聞いて調べた結果、倉庫内に積み重ねられていたという。

 見つかった石版群は、「明治のたばこ王」と呼ばれた村井吉兵衛(1864~1926年)が京都で設立した「村井兄弟商会」の工場で使われたと、田中准教授らはみる。工場はのちに、戦後発足した日本専売公社の京都印刷工場として稼働したが、印刷技術の進展などに伴い使われなくなった石版群が大学側に移されたというのだ。「詳しいいきさつは当時の関係者がもういないので分からないんです」

 そもそも石版画とはどのようなものなのか。

 石版画はリトグラフとも呼ばれる。版画のように、石を刻むのではなく、液体の化学変化を利用するのだという。石の表面に脂肪性のクレヨンなどで描く。上に弱酸性の液を塗ることで化学反応が起き、油性のインクが付いたローラーを転がすことで描かれた部分だけにインクが付着し、印刷できるという仕組み。これはドイツ発祥の技法で、日本には江戸期に伝来。現在最も一般的なオフセット印刷の源流といい、アートの分野でも使われたそうだ。

 石版画の技法は明治以降、印刷手法として広がったが、技術の進展とともに衰退し、現在は一部の美術大学や工房でのみ継承されているという。田中准教授は「明治、大正、昭和と三つの時代にわたって職人たちの汗が染みついた貴重な証言者。廃棄されず、よく残ってくれた」と話す。大学の授業ですでに活用しているという。

 見つかった石版のうち、「ピース」や「ゴールデンバット」など約20枚を中京区西ノ京南聖町のギャラリー「京都場」で開かれている展覧会で見ることできる。無料。問い合わせはinfo@kyoto-ba.jp

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