結婚して5年になる30代のAさんは、夫の給料明細を1度も見たことがありません。毎月夫から手渡される生活費でなんとかやりくりしているものの、その金額が適正なのかどうかの判断もできません。夫の年収はおろか、ボーナスがあるのかどうかさえ知らないのです。
そのため「もしかして財産を隠しているのでは」と不信感が募る一方、夫に問いただしても「必要な生活費は出しているんだからいいだろう」とはぐらかされてしまいます。友人に相談すると「それって経済的DVじゃないの?」と言われ、夫の行動への疑問と不安が拭えなくなってしまいました。
では、Aさんの夫のように、妻に給料明細を見せない行為は法的に問題があるのでしょうか。また、夫の収入を合法的に調べる方法はあるのでしょうか。弁護士の齊田貴士さんに話を聞きました。
「給料明細を見せない」だけでは経済的DVとは言えない
ー夫が妻に給料明細を見せないことは、法的に問題のある行為になりますか?
配偶者に給料明細を見せなくても、すぐに違法になることはありません。夫婦には「協力及び扶助の義務」(民法752条)が定められていますが、給料明細の開示を義務づける規定は存在しないからです。
ただし、夫婦には同等の生活水準を保つ義務(生活保持義務)があります。生活費が明らかに不十分で、妻や子どもが生活に困窮しているような状況であれば、協議または調停など法的な対応で生活費の増額を求めていく必要があります。
ー「経済的DV」と認定されるには、どのような条件が必要ですか?生活費の額や使い方の自由度は関係しますか?
経済的DVとは、お金を通じてパートナーを支配したりコントロールしたりする行為を指します。たとえば十分な収入があるにも関わらず必要な生活費を渡さず、日常生活に支障が出ているなら、経済的DVと判断される可能性が高くなります。
その他にも、生活費の使い道を1円単位で細かく報告させて必要以上に管理する、配偶者が自由に使えるお金を一切与えない、勝手に貯金を使われる、借金を強要させられる、配偶者が働くことを認めないなどの行為も、経済的DVにあたる場合があります。
Aさんのケースでは、生活費の金額や日常生活への影響、夫の態度などを総合的に見て判断する必要があります。「給料明細を見せない」という一点だけでなく、生活の実態がどうなっているかが重要です。
ー話し合いで開示を求めても応じてもらえない場合、妻が夫の収入を合法的に調べる方法はありますか?
いくつか方法があります。まず、市区町村の窓口で「課税証明書」を取得する方法です。課税証明書には給与所得や事業所得はもちろん、投資信託による配当所得まで記載されているので、配偶者の収入を確認できます。同居中の家族であれば、委任状なしで取得可能な自治体が多いです。
離婚や婚姻費用の調停・審判の場面では、家庭裁判所を通じて源泉徴収票や所得証明書の提出を求められます。これは法的手続きを伴いますが、より確実に収入の実態を把握できます。
配偶者の行動が経済的DVなのか判断に迷ったら、まずは女性相談センターや男女共同参画センターといった公的機関に相談してみてください。
◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。