空いた電車の座席で、編み針を動かす手。途中の駅で人が乗ってきて、いったん手を止めようとすると、隣のご婦人が口を開きます。「編んでていいのよ、見たいから隣に座ったのよ」——。降りる駅までのひとときをつづった投稿が、Xで話題になっています。
投稿したのは、編み図(記号で手順を表した図)の販売など、編み物を仕事にしている、30代のrisaさん(@koalove_knit)。小学生の頃、母親にマフラーの編み方を教えてもらったことが始まりだといいます。
この日編んでいたのは、制作中のショールでした。濃紺の生地に、水色や桜色のふわふわした糸の飾りが並びます。電車に乗っていた20分ほどの間も、デザインを考えながら手を動かしていたそうです。普段、車内で編むのは周りに人がいないときだけとのこと。やがて、途中から乗客が増えました。「編んでいる腕が当たってしまったり、針先が危ないかもしれない」。そう考えて、編むのをやめようとしたところで、声をかけられました。
この投稿は約190万回表示され、「こんな素敵な話ばかりの世の中になればいいと思う」「心がほっこりしました」といった声が数多く寄せられています。「アタシのお隣も空いてます。編んでくれませんか?」という呼びかけも。特に目立ったのは、ご婦人への憧れでした。「このご婦人のように思っていることを伝えられるようになりたい」「将来こういうご婦人になりたいから絶対長生きするって今決まった」
こうした反響について、risaさんは肯定的なコメントが多かったことを喜んでいます。
別れ際に交わした「お元気で」
編んでいていいと言われたときの気持ちを尋ねると、「とてもうれしかったです」とrisaさん。ご婦人はにこやかで優しく、ご自身の洋裁(洋服の仕立て)や和裁(着物の仕立て)の経験について語ってくれたそうです。やがて、先に電車を降りることになったご婦人に「ありがとうございました」と伝えると、返ってきたのは「お元気で」。risaさんも同じ言葉で応えたそうです。あの日のことを、「とても素敵な出会いだったなと、今でも心があたたかくなります」と振り返ります。
小物からウエアまで、オリジナルで
risaさんが編むのは、ショールだけではありません。小物から衣類まで、いずれもオリジナルのデザインで手がけてきました。細やかな模様を横に連ねた巾着の真ん中にはコアラの顔。裾にたっぷりとフリルを寄せたスカートは、濃淡の違う青を並べた一枚です。
淡い色が段ごとに移り変わる靴下や、青みがかった深い緑のセーターも制作してきました。
電車以外の場所でも、周囲に迷惑がかからないよう気を配りながら、基本的にはどこでも編んでいるそうです。
編む手を止めかけたrisaさんに届いたひと言が、20分の乗車時間を、忘れられない出来事に変えたようですね。