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保護した猫が妊娠していたら…出産を見守る?手術を選ぶ? 獣医師が直面した2つの家族の決断

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

猫はおおむね2月ごろから発情が始まります。人間と異なり、日が長くなる刺激で赤ちゃんをつくる機能が働き出します。ですので、3月~5月に保護した地域猫たちは、妊娠していることも多々あります。

茶トラ猫が連れてきたキジトラ猫、実は妊娠

私が勤務している動物病院があるところはとても田舎で、家の周りは田んぼや畑で、猫を外に出している方も多い地域です。Aさんが飼われている茶トラの男の子も…春は毎日デートで大忙しで、家にはなかなか帰ってきませんでした。この茶トラ君は去勢手術を受けていませんでした。

そんなある日、その茶トラ君が小さなキジトラの女の子を連れて、久しぶりに家に帰ってきました。Aさんは茶トラ君がお友達を連れてきたわ!とキャットフードをお出ししておもてなししました。

しかし、そのキジトラ猫は3日経っても1週間経っても、自分の家に帰る気配はありませんでした(要するに飼い猫ではなかったのですね)。毎日、茶トラ君はキジトラ猫と仲良くしていましたし、Aさんのご主人までもが、そのキジトラ猫のかわいさのとりこになっていました。そして、そうこうしているうちに、お腹周りが大きくなってきました。Aさんたちは、自分の猫ではなかったけれども、重大な病気なのでは?と心配して、私の勤務する動物病院に連れてきました。

勘のいい読者さんはもうお気づきですね。そうです。キジトラ猫は妊娠していて、もうすぐ生まれそうでした。そして、子猫のお父さんはきっと茶トラ君です。

まず私は、Aさんが動物病院に連れてきたキジトラ猫の胎子を腹部エコー検査で確認し、キジトラ猫にマイクロチップが入っていないことも確認して(マイクロチップが入っていれば飼い猫確定ですが入っていないので飼い猫ではない可能性が高い)、その状況をAさんにお話しいたしました。

Aさんは大変驚かれ、ご家族会議でとても悩まれた結果…大変心苦しいご決断をなさいました。キジトラ猫はAさんの家で飼われることになりましたが、残念ながら子猫までは飼ってあげることは難しいと、避妊手術をご希望されました。元々、飼える猫は1匹としていたAさん家族にとっては、キジトラ猫にかかる費用は突然の大出費でした。私は出産してから里親さんを探すご提案もしましたが、昼間は自宅に誰もおらず、出産~育児をサポートする時間や費用は出せないとのことでした。

キジトラ猫はそのまま避妊手術となりました。動物病院で勤務する獣医師は誰しも、妊娠している猫の避妊手術は何度も経験すると思いますが、私は今回、茶トラ猫を頼ってAさんのおうちにたどり着いたキジトラ猫の気持ちを思うと、いつも以上に心が痛みました。そして私は、診察の最初から最後まで、Aさんに口を酸っぱくして申し上げました。「とにかく茶トラ君をまず、去勢手術に連れてきてくださいね」。

別の保護猫も妊娠 出産を見守ることに

別の日に、猫を保護したので健康診断をお願いしますというご希望で、Bさんが小柄なシャム模様の猫を診察に連れてこられました。Bさんは1月の寒い夜に、そのシャム模様の猫を初めて見かけたそうです。その時はあまり汚れている感じはしなかったので、飼い猫なのかな?と思ったらしいのですが、それから2ヵ月ほど経った3月下旬の深夜、今度はそのシャム模様の猫がコンビニ近くで痩せ細り薄汚れた格好でたたずんでいるのを見つけました。Bさんは、見るに見かねて保護し、当院に連絡されたのでした。

簡単な健康診断を済ませて、その後は新しい環境に慣れてもらうために3週間後の再診としました。ところが再診前にBさんから連絡が入り、「うちにいるメス猫たちと比べたら、乳首が大きいようです」とおっしゃるので、私は「それは妊娠していますね、きっと」とお話ししたところ、すぐに「子猫まで飼えないので、避妊手術をしてほしい」と希望を伝えられました。私は、「まずは本当に妊娠しているのかを腹部エコー検査で確認させてください」とお願いして診察し、妊娠を確認しました。

私は、長年当院に来てくださっているBさんならきっと理解してくれるのでは?と思い、「4月末には生まれると思います。妊娠していても避妊手術を希望されるのでしたら手術はいたしますが、このまま出産させて里親に出すという選択もあります。生まれた子猫は私が責任を持って里親探しをいたしますので、どうでしょうか?猫は誰にも教えられなくともきちんと自分で出産して、子猫の世話をして育て上げます」と思い切って提案しました。実はBさんは新婚で、入籍したばかりでした。ご主人と一緒に当院へ来られておふたりで話し合い、避妊手術をせずに出産と子育てを見守る決心をされました。私は出産と子育てに関して一通りの説明をさせていただき、診察を終えました。

その後、シャム模様の猫は、誰の助けも借りずにひとりで4月29日に3匹を出産しました(いつもとても尊敬してしまうのですが、猫は誰にも教えられなくともちゃんと自分ひとりで出産します)。現在すくすくと育っています。里親さん探しも、二転三転しましたが無事に決まりました。

出産か、手術か 気持ちだけでは決められない現実

今回、妊娠している猫を前にして、出産を見守るにしても避妊手術を選ぶにしても、どちらも簡単な判断ではないなと思いました。産ませると言っても、気持ちだけでできるわけではなく、時間や費用、里親探しの見通しなどにも左右されます。特に、春に保護するメス猫は、妊娠している可能性があるので、こういった判断を迫られることを想定しておいてほしいです。

さらに、獣医師としてお伝えしたいのは、「飼い猫は外に出さないように」ということです。令和に入ってから本格的に感染が広がりつつあるSFTS、これはマダニが媒介する感染症です。外に出る犬や猫、特に猫での感染が多く、その感染した猫から人への感染も確認されています。猫での致死率は60~70%で、人の感染でも死亡例が報告されています。
それから、猫を飼うときは「必ず避妊去勢手術を」受けましょう。外に出さないと決めていても、発情期には飼い主さんが玄関のドアを開けた瞬間に、外に飛び出して行ってしまうこともあるのです。外に飛び出して行って、交通事故に遭ったというお話もよくあります。その後も避妊去勢手術を受けずに高齢になると、子宮蓄膿症や卵巣がん、精巣がんなど、生殖器にまつわる病気のリスクもあります。

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