生後6カ月の子どもがいる女性のAさんは、初めての出産だったこともあり、実家に里帰り出産をし、生後3カ月経った頃に自宅に戻って来ました。まだまだ夜も頻繁に授乳があり、細切れでしか寝られません。しかしAさんが里帰り出産をしている間は1人暮らしをしていたからか、Aさんの夫には父親になった感覚がない様子です。Aさんがどれだけ子どもの世話で疲れていても「飲み会があるから」「行かないと昇進に響くから」と、週に1回は飲みに出かけます。
この状況に危機感を持ったAさんは「父親になった自覚をもってほしい」「もう少し育児にも参加してほしい」と伝えますが、改善する様子は見られません。そのため、Aさんは夫と一緒に子育てをしていく自信をなくし、離婚を考えるようになってしまいました。Aさんの夫に今からでも父親としての自覚を促すことはできないのでしょうか。夫婦やカップルのメンタルケア専門の心理士であるマインドウェル株式会社の石田真央さんに話を聞きました。
家庭の問題を最優先に考えてくれていることが行動に見えない
ーなぜAさんの夫は父親としての自覚を持てないのでしょうか
もしかしたら、Aさんの夫はAさんの置かれている状態を理解できていないかもしれません。Aさんは夜間の授乳で睡眠不足に加え、子どものことを気にしながら家事もこなしているわけです。産後のボロボロな身体で必死に頑張っているAさんからしたら、毎週飲み会に行く夫に快く「行ってらっしゃい」とは言えないでしょう。
このようなAさんの状況を夫が解像度高く理解できていれば、Aさんの必死の願いを後回しにするようなことはないはずです。そして家庭の問題を最優先に考えてくれていることが夫の行動に現われていないので、Aさんは夫を「父親の自覚がない」と判断するのです。
ただし、ここで注意したいのは、この夫がそもそも「育児をしたくない」のか、「育児はしたいけれどできない」のか、「自分としては育児しているつもり」なのか、どのように考えているのかによって、状況が随分変わってくるという点です。「なぜ父親の自覚を持てないのか」を理解するためにも、夫の価値観の確認もするべきでしょう。
「父親とは何か」というイメージを養っていくことが重要
ー里帰り出産は父親としての自覚を薄める要因になるのでしょうか
里帰り出産だと、父親としての「実感」が湧かないことはあると思います。実際に、ママが里帰りしている間、パパが子どもの写真を見て「自分の子という感覚がピンとこなかった」という話はよくあります。ただ、あくまで「実感」が湧いていないだけで、その後子どもとの関わりを通して改善されていくものです。
とはいえママが里帰りしている間、「パパが1人時間を謳歌する」なら父親としての自覚がないと判断されてしまうでしょう。里帰り出産をする場合は、子どもの抱っこの仕方やオムツの替え方、お風呂の入れ方などを勉強し、「父親とは何か」というイメージを養っていくことは重要です。
まずは危機感を持ってもらうために警告
ー今からでも父親としての自覚を促すことは可能でしょうか、またどのようにすればいいのでしょうか
まずは危機感を持ってもらうことが一番有効ですので、Aさんは妻として夫に警告するべきだと考えます。お互いの両親を交えて相談したり、カップルセラピーや夫婦カウンセリングを利用する等、積極的に第三者を頼るのがお勧めです。
また他の家庭との関わりも重要です。世間一般的に働く父親が家庭でどういったことをしているのか、育児に貢献するとはどういったことなのか、具体的なイメージを持たせてあげるのです。自治体が開催しているパパママ教室に夫婦で参加することもおすすめです。
◆石田真央(いしだ まお)臨床心理士・公認心理師
カップルセラピー専門機関「Cobeya」カップルセラピスト。家族療法の専門家として、夫婦・カップル間の悩み、子どもや大人の精神疾患や発達障害、問題行動など、幅広く相談を取り扱ってきた。現在は自治体の「パパママ教室」講師として、産後の夫婦のメンタルケアについても発信。