36人が死亡、32人が重軽傷を負った京都アニメーション放火殺人事件で、一審京都地裁で死刑判決を言い渡された青葉真司死刑囚(46)が控訴を取り下げたことに対し、弁護人が取り下げを無効とするよう大阪高裁に申し入れたことが分かった。1月30日付。裁判所が控訴取り下げの効力をどう判断するかが注目される。
青葉死刑囚本人が同27日に控訴取り下げ書を高裁に提出していた。弁護人と高裁は無効申し入れの理由を明らかにしていない。
刑事訴訟法は、被告本人が控訴を取り下げることができると定めている。大阪高裁によると、控訴取り下げ書が高裁に出された時点で法律上は一審の死刑判決が確定する。一方、刑訴法に明確な規定はないが、本人が行った控訴取り下げに対し、弁護人は無効を申し入れることができる。
弁護人が無効を訴えた場合の手続きも刑訴法に規定がなく、どのように審理を進めるかは裁判所の裁量に委ねられる。高裁は「どのような手続きになるかは非公開の手続きのため答えられない」とコメントした。
過去の死刑事件をみると、控訴取り下げを巡る審理は、高裁が効力を判断し、高検または弁護側がその判断に不服がある場合は最高裁に特別抗告している。
1981年から82年にかけて神奈川県藤沢市などで女子高生ら5人を殺害した藤間静波元死刑囚(2007年に執行)は、二審途中に自ら控訴を取り下げ、その効力を巡って公判が中断。最高裁は1995年、「拘禁反応などの精神障害を生じ、その影響下で上訴を取り下げた場合は無効と解するべき」として、取り下げを無効と判断。公判が再開した。
2015年に起きた大阪府寝屋川市の中1男女殺害事件では、一審で死刑判決を受けた山田浩二死刑囚が控訴を取り下げ、弁護人が無効を主張。高裁は無効と判断したが、最終的に有効とされ、死刑が確定した。
青葉死刑囚の弁護側は、京都地裁で行われた裁判員裁判で、青葉死刑囚が責任能力のない心神喪失か、著しく低い心神耗弱状態だったと主張。昨年1月25日の地裁判決は完全責任能力を認め、求刑通り死刑を言い渡した。弁護側と本人が大阪高裁に控訴していた。
関係者によると弁護側は昨年9月、責任能力を否定する控訴趣意書を高裁に提出。控訴審も責任能力が争点になるとみられていた。
「訴訟能力ない」主張か
【渡辺修・甲南大名誉教授(刑事訴訟法)の話】
一審判決は(青葉死刑囚の)犯行動機の形成過程に妄想性障害による妄想が影響していると指摘した。弁護側はこうした経緯を踏まえ、訴訟能力がないので本人による取り下げ書は効力が認められないと訴えて、申し入れを行ったと考えられる。死刑事件であり、控訴審も責任能力が最大の争点となる見込みだったことを踏まえると、大阪高裁は本人の訴訟能力の有無や精神状態について職権で取り調べを行った上で、控訴取り下げに効力があるかどうかの判断を示すべきだ。