車に乗って出かけた時に駐車場選びで困ることがあるように、自転車でも昨今では気軽に停められる場所が少なくなり、トラブルに発展することがあるようです。都内で会社員をしているAさん(30代・男性)も自転車の停める場所でトラブルとなったひとりです。
Aさんは普段、帰宅時に最寄り駅の近くにあるスーパーに寄って買い物をしています。ある日会社で表彰されたAさんは、ご褒美としていつもよりいいお酒をスーパーで購入し帰宅しました。家に帰ると、お酒に合うつまみを買い忘れていることに気づき、急いで自転車に乗ってスーパーに引き返します。
駅前のスーパーには駐輪場がないため「短時間で戻ってくるから大丈夫だろう」と考え、スーパーの近くにある私有地に自転車を停めました。10分ほどで買い物を終えたAさんが自転車を置いてある場所に向かうと、そこには私有地の持ち主が立っていて「罰金5万円」と書かれた貼り紙を指さして、お金の支払いを要求してきたのです。
私有地に無断で自転車を停めていた自分が悪いという自覚はあるものの、5万円という高額な罰金にAさんは納得できません。この罰金は絶対に支払わなければいけないのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を聞きました。
「無断駐輪で罰金」という貼り紙には、法的効力があるのか
ー無断駐輪で罰金という貼り紙には法的効力があるのでしょうか
結論から言うと、有効ではないと判断されるケースが多いです。そもそも法律上の罰金とは、検察の起訴に基づき裁判所が言い渡す刑事罰と、独占禁止法違反などの行政法上の重大な違反や条例にもとづき科される行政刑罰に大別され、私人が私人に対し罰金を科することはできません。
私有地に無断駐輪した今回は、いずれのケースにも該当しないので罰金と表記することは適切ではありません。
ーではAさんはお金を払わなくていいのでしょうか
そういうわけではありません。Aさんは土地の所有権を契約関係もなく、無断で侵害していることから不法行為として損害賠償を請求されることはありえます。これは「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と民法709条に定められています。
ただし、今回の金額「5万円」が妥当であるかは疑問が残ります。今回のような不法駐輪の場合、損害額の算定は近隣の駐輪場の料金を参考に算出されるはずです。10分停めただけで5万円かかる駐輪場はまずないでしょう。もしこの貼り紙を口実に、土地の所有者が5万円の支払いを迫ってきた場合、逆に脅迫と見られる可能性もありえます。
また停めてある自転車に掛けられているチェーンを切って動かしたり、タイヤの空気を抜いたりすると、逆に土地の所有者が、自転車の所有者の所有権を侵したとして訴えられることもあるでしょう。
よってAさんが提示された5万円支払う法的根拠は薄いと考えます。ただし不法行為をおこなったことは間違いないので、1円も払わなくてもいいとはならないでしょう。真摯な姿勢で土地の所有者に謝罪して、冷静に適切なやり取りをする事をおすすめします。先方との話がまとまらない場合は、弁護士に相談されるといいでしょう。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。