株式投資で成功して大金を手に入れたAさんは、両親への感謝の気持ちを形にしようと考えました。年金生活を送る両親は、日々の暮らしに不自由はありませんでしたが、長年住み慣れた実家の水回りが老朽化していることを心配しているようです。
Aさんが両親に実家のリフォームを提案したところ、2人はとても喜んでくれました。すぐに業者に見積もりを依頼し、工事の計画を立てていきます。水回りの改修に加え、バリアフリー化も視野に入れ、両親が将来にわたって安心して暮らせる住環境を整えることにしたのです。
工事費用は予想以上に高額でしたが、Aさんは躊躇することなく全額を負担することを決意します。両親の口座にリフォーム代を振り込み、工事の準備は順調に進みました。
ところが工事開始直前、Aさんがリフォームの話を友人にしていたら「親へのリフォーム代の振り込みは贈与にあたり、税金がかかるのではないか」と友人から指摘を受けます。Aさんはせっかくの親孝行のつもりが、思わぬ税金問題に発展する可能性があったことに愕然とします。
実家のリフォーム代を子どもが出しても贈与税がかかるのでしょうか。秋田会計事務所の秋田英策さんに話を伺いました。
ー子どもが実家のリフォーム代を出した場合、贈与税はかかりますか
実家の名義が親名義のまま子どもがリフォーム代を負担した場合、リフォーム代は子から親への贈与とみなされる可能性があります。仮にリフォーム代が500万円だった場合基礎控除額110万円を差し引いた金額390万円に対して贈与税が課税されます。
一般税率を前提として計算すると贈与税は、課税価格が200万円を超え400万円以下の場合、税率は20%、控除額は25万円です。そのため、課税価格390万円に税率20%をかけると78万円になります。そこから控除額の25万円を差し引いた金額が最終的な贈与税額です。以上の計算により、このケースで発生する贈与税額は53万円となります。
ー実家をリフォームする際に、贈与税を避ける方法はありますか
いくつか方法がありますが、売却することで実家の名義を親から子どもに変更する方法があります。この場合、実家を子どもの名義にすることで、リフォーム代は自己の所有物への支出となるため、贈与税はかかりません。
親から子へ売却する場合、譲渡所得税(所得税+住民税)が発生しますが、実家の評価額が低ければ税負担も軽減されます。例えば、評価額が200万円以下であれば、リフォーム代を贈与するよりも売却の方が得になる可能性があります。
一方、贈与する場合、評価額が400万円以下なら、贈与税の基礎控除110万円を差し引いた課税価格が290万円となり、贈与税は33万円(税率15%、控除額10万円)で済み、リフォーム代の贈与より税負担が少なくなります。
ただし、税負担総額の算定の際には、売却の場合には実家の取得・譲渡費用や譲渡所得税率を、また売却時・贈与時における登録免許税・不動産取得税も考慮する必要があります。
いずれにしても専門家に相談したうえでリフォームを進めた方がいいでしょう。せっかくの親孝行の機会なので、よりよい方法を選んでいただきたいです。
◆秋田英策(あきた・えいさく)/税理士・公認会計士 大阪府茨木市にて開業。税理士として、税理士事務所勤務時も含め、これまで個人から上場企業まで幅広く税務業務に従事。また、公認会計士として、前職の監査法人勤務時には、上場企業のほか、社会福祉法人等の非営利法人等の会計監査業務にも従事。2021年に秋田会計事務所を開所。現在はこれまでの知識・経験を活かし、税務・会計・監査の面から幅広く業務を実施している。