大学4年生のAさんは、以前から希望していた企業への就職が決まり、ほっと胸をなでおろしていました。Aさんの就職祝いを兼ねて、親族の集まりが開催されることになり、久々に会う祖父母や従兄たちと、楽しい時間を過ごします。
食事が一段落したころ、祖母がAさんの元にやってきて、封筒を手渡します。Aさんが封筒を空けて中身を確認すると、Aさん名義の銀行の通帳が入っていました。祖母が言うには、Aさんが生まれた月から毎月1万円ずつ入金していたというのです。
確かにこれから就職を控え、引っ越しや一人暮らしの準備などでお金が必要だったため、Aさんは祖母からの申し出を心からありがたいと感じています。
ただ総額250万円を超える金額を見て、すんなり受け取りますとは返答できません。いくら自分名義の通帳とはいえ、250万円のお金を受け取っても問題ないのでしょうか。秋田会計事務所の秋田英策さんに話を伺いました。
ー自分名義の口座でも贈与税はかかるのでしょうか?
今回のケースのように自分名義の口座であったとしても、110万円を超える金額を一度に渡された場合、110万円を超えた金額に対して贈与税がかかります。通帳上は毎月1万円ずつ入金されていたとしても、贈与される側がその贈与の事実を認識していなければ、一度に渡されたもの、すなわち110万円を超える金額を一度に贈与されたものであると判断されます。
贈与税は一般的には、その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産(時価)を合計し、その合計金額から基礎控除額の110万円を差し引いた残額に税率を掛けて計算されます(暦年課税)。
ただし、今回のようなケースでは適用税率が一般税率ではなく特例税率(祖父母や親から18歳以上の子や孫が贈与を受けた場合の税率)の適用となり税負担が軽減されます。
ー贈与税を回避する方法はありますか?
親族間であったとしても現金や預金の贈与があった場合には、贈与契約書を交わしておき、かつ受贈後は口座に係るカードや通帳、印鑑を受贈者自身が管理し、口座からのお金の出し入れ等を管理しておくことが必要です。
この250万円を3年に分けて年間110万円以下の金額について、その都度、贈与契約書を交わした上で、Aさん名義の口座へ祖母から贈与をおこない、その口座に関する管理をAさん自身がおこなっておけば、贈与税がかかる可能性は低いと考えられます。
最低限、客観的に贈与の事実を証明できるように、贈与契約書を作成することはもちろんのこと、贈与財産自体を受贈者が管理することが肝要であると考えます。
ー贈与税を払っていないと指摘される可能性はあるのでしょうか
仮にAさんが申告をせずに贈与を受けた場合、税務署から申告漏れを指摘される可能性があります。贈与者(祖母)が亡くなった後、相続税の税務調査がおこなわれた場合、調査の過程で贈与税の申告漏れを指摘されるケースがあります。
未申告の贈与が判明した場合、贈与税の追徴課税に加え、延滞税や加算税が課されることがあります。リスクを回避するためにも、贈与税の適切な申告を行い、法令を遵守することを強くお勧めします。
◆秋田英策(あきた・えいさく)/税理士・公認会計士 大阪府茨木市にて開業。税理士として、税理士事務所勤務時も含め、これまで個人から上場企業まで幅広く税務業務に従事。また、公認会計士として、前職の監査法人勤務時には、上場企業のほか、社会福祉法人等の非営利法人等の会計監査業務にも従事。2021年に秋田会計事務所を開所。現在はこれまでの知識・経験を活かし、税務・会計・監査の面から幅広く業務を実施している。