2025年末での廃止が決定したガソリン税の暫定税率。その一方で、最近は「走行距離課税」が話題になっています。本記事では、その概要やメリット/デメリット、導入の課題について解説します。
「走行距離課税」とは何なのか
走行距離課税とは、その名の通り「走行距離に応じて税金を課す」仕組みです。
日本ではまだ導入されていませんが、海外ではすでにアメリカ(オレゴン州)やニュージーランド、ドイツで導入されています。
走行距離課税は、ガソリン税と違って電気自動車などからも平等に税金を徴収できます。一方で、地方や運送・輸送業界の負担増大といったデメリットもあります。
▽日本では2018年頃から議論に
走行距離課税は、ガソリン税の暫定税率廃止によって登場した案ではありません。2018年頃から議論に上がっていた案です。
2022年10月には、鈴木俊一財務相(当時)が参議院予算委員会で走行距離課税について言及。これをきっかけに「近いうちに導入されるのでは」と話題になりました。
▽2026年度の導入は否定
ガソリン税の暫定税率廃止に際して、自民党は与野党合意の直前まで自動車諸税の見直しを検討する考えでした。しかし、少なくとも2026年度税制改正での走行距離課税導入は見送っており、片山さつき財務相も「具体的に検討していない」と導入を否定しています。
そうは言っても、ガソリン税の暫定税率廃止による代替財源の見通しは現在も立っていません。道路財源を確保する方法として、いずれ走行距離課税の導入案が再浮上する可能性もあります。
走行距離課税が議論に上がる理由
走行距離課税は「自動車関連税収の減少で、今後道路インフラの維持・管理が難しくなる」という理由から、議論されるようになりました。税収減の要因には、主に以下の3つが挙げられます。
▽電動車の普及で税収が減っている
現在の自動車税制では、電動車の普及による税収減が懸念されています。
たとえば、電気自動車はガソリン税が一切かからず、排気量がゼロなので自動車税も最低限の課税額です。
日本自動車会議所は、2022年5月に「2021年度の燃料課税の税収が過去20年間で最少となった」と発表。現状の制度を維持すれば、今後税収はさらに落ち込み、道路インフラの維持・管理が困難になります。
▽若者の車離れも税収減に影響している
現在は都市部を中心にカーシェアリングなどの利用が普及しており、特に若者の間で車を所有しない選択が広がっています。
こうなると、自動車の台数自体が減り、結果として自動車関連の税収も減少します。
▽暫定税率廃止で税収がさらに減る
ガソリン税の暫定税率廃止により、今後は年間1.5兆円程度の税収減が見込まれます。この税収減の代替財源に関しては、11月の与野党合意で議論がまとまらず、結論が先送りされています。
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走行距離課税の4つのメリット
走行距離課税を導入すれば、電動車ユーザーからも税金を徴収しやすくなり、財政の安定化が見込めます。また、導入方法によっては環境負荷の軽減や騒音防止、混雑の軽減といった効果も期待できます。
(1)車種に関係なく負担が公平になる
現状の自動車税制は、電動車の税負担が軽い状況です。たとえばガソリン税を廃止し、代わりに走行距離課税を導入すれば、車種に関係なく公平に税負担がかかります。
(2)「走った分だけ課税」という点も公平
現状の自動車税や自動車重量税は、走行距離に関係なく「所有していれば一定額を徴収」というシステムになっています。
その点、走行距離課税は走った分だけ課税することになるので、使用頻度の低い人や走行距離の短い人の税負担を減らせます。
(3)財政の安定化が見込める
走行距離課税であれば、車種に関係なく課税ができますし、設定する税率によっては税収増を見込めます。
高度経済成長期に整備された道路は老朽化が進んでいる状況なので、こうした道路インフラの財源を確保できるのは、大きなメリットでしょう。
(4)環境保全や騒音防止が期待できる
走行距離課税を設定すれば、税負担が大きくならないよう「ユーザーが車の使用を少し控える」といった効果を期待できます。そうすれば、環境保全につながります。
また、走行距離に加えて時間帯や交通量に応じた税率設定を行えば、「夜間の交通量を減らす」「交通渋滞を分散させる」といったこともできるでしょう。
走行距離課税の4つのデメリット
走行距離税は税収アップやその他の副次的な効果を期待できる一方、地方在住者の負担増や物価高を招くおそれがあります。また、電動車の普及も妨げることになるでしょう。
(1)地方在住者の負担が増える
交通インフラが普及していない地方では車が欠かせず、走行距離も長くなりがちです。そのため、走行距離課税を導入すると、地方在住者の負担は大きく増してしまいます。
(2)物価高騰を招くおそれがある
走行距離課税を全車に導入した場合、運送業界も大きな影響を受けます。トラックの年間走行距離は平均で約4万km~7万kmにもなるといわれ、これに走行距離課税が課されれば物流コストが高騰します。物流コストは商品価格にも影響を与えるため、結果として物価高騰につながるおそれがあります。
(3)バスやレンタカー料金も高くなる
走行距離課税の影響を受けるのは、旅客輸送も同じです。バスやタクシーも走行距離が非常に長いので、課税対象となれば、これらの利用料金も高くなるでしょう。
また、レンタカーやカーシェアリングなども、課税額を踏まえて価格設定が変わると考えられます。
(4)電気自動車などの普及を妨げる
電気自動車やプラグインハイブリッド車は、ガソリン車などと比べて車両価格が高いです。しかし、これまでは購入時の補助金に加えて「維持費の安さ」を売りに販売できました。
走行距離課税が導入されると「ガソリン税がかからない」といったお得感がなくなり、結果的に普及が妨げられるおそれがあります。