高校生活の締めくくりとなる卒業式は、多くの生徒や保護者にとって、学校生活の終わりを厳かに祝う特別な日です。しかし、その後に控える「謝恩会」もまた、卒業生や保護者が先生方への感謝を伝え、思い出を共有する場として重要なイベントです。和やかな雰囲気の中で感謝を表し、絆を確かめ合うこの会ですが、その舞台裏では保護者たちによるさまざまなドラマが繰り広げられています。
謝恩会の準備、役員構成と委員たち
東京都在住のNさん(50代)は、私立中高一貫校に姉妹二人を通わせ、今年ついに次女の卒業を迎えます。学校には姉妹合わせて10年間お世話になりました。今までの感謝の意味を込め、謝恩会実行委員に立候補しました。
謝恩会実行委員は5人の幹部(委員長、副委員長、会計、監査、書記)と、約50人の保護者で構成されます。約50人の保護者たちは「当日会場係」「映像音響係」「記念品係」「印刷物係」などの役割に分かれ、それぞれ準備を進めます。Nさんは副委員長として、多くの保護者をまとめる役目を担いました。
例年、謝恩会はホテルの宴会場を貸し切って行われます。参加は任意ですが学年の7割ほどの卒業生とその保護者が出席し、食事会、スピーチ、映像上映、記念品贈呈などが行われます。
準備は高3の1学期から始まります。参加費は卒業生・保護者それぞれ2万5000円で、ホテルに支払う会場費、先生たちへの花束、学校のロゴマーク入りの卒業記念品の作成などに使います。月1回行われるミーティングでは、役員と各係の代表者が出席。進捗確認などを行い、謝恩会が盛大で素晴らしいものになるよう努力を重ねていました。
委員会に訪れた嵐…「もっと豪華に!」
ところが準備が佳境に入ったころ、波乱が起こります。保護者の一人が、「席次表や卓上名札のデザインをもっと豪華にしたい」と主張し、追加予算を求めたのです。生花や記念品など、物価高騰の影響を受けるものについてはやむを得ず、予算上乗せを了承してきたのですが、席次表や名札にはあまりお金をかけられません。
Nさんは、予算の範囲内で対応するよう何度も説明し増額を断りましたが、その保護者は納得しません。「一生に一度の謝恩会。豪華にして何が悪いの」と激怒。ついに「もう係をやめます!謝恩会にも出席しません!私の意見に賛同してくれた周りの保護者数名も欠席します!すでに支払った会費も返してください!」と会議で言い始めました。それにはNさんはじめ役員全員が言葉を失いました。すでに集めた参加費の中で運営しているので、会に参加しない保護者が増えて返金額がかさむと、想定していた予算が大きく変わってしまいます。
「会費」と「豪華さ」のバランス
一旦は保留にして場を収めたものの、Nさんたち役員は、感謝の場である謝恩会の意義を守るため奮闘しつつも、「豪華さ」と「予算」のバランスをどう取るべきか、難しい判断に迫られることになりました。
一方で、「謝恩会の出席をやめる!係をやめる!」といった激しい主張が出てきた背景には、「受験生を抱える親としてのストレス」が背景にあるのではないかと、同情の声も上がりました。しかし、謝恩会の準備に関わる保護者全員が同じように受験生を抱え、忙しい日々を送っている状況を考えると、一部の人が勝手な行動をとることが容認されるわけではありません。
役員の一人が、「謝恩会は感謝の場であり、自己表現の場ではないですよね。自分の結婚式の準備みたいに熱くなるのは勘弁してほしいですね」と冗談めかして言ったことに、激しく同調するNさんなのでした。
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謝恩会準備などで、保護者同士で意見が食い違ったエピソードはありますか。
▼40代・小学校卒業
子どもの小学校卒業を祝う会を保護者の有志で開催することにしました。2クラスしかない小規模小学校だったので、出席は任意として、全家庭に出席を取りました。企画する段階で、開催場所選びで、ホテルの宴会場を推す保護者と、近所のカラオケボックスを推す保護者、お菓子持ち寄りの公園を推す保護者がいました。会費を集める以上、各家庭の事情もあるので、意見を集約するのが大変でした。結局間をとって、カラオケボックスで開催しました。結果、ケータリングで食事も用意でき、とても盛り上がりましたが、決まるまではヒヤヒヤしました。
▼50代・中学校卒業
娘が中学卒業時に謝恩会実行委員になりました。記念品を選ぶ係の保護者が、例年通りでは無難すぎてつまらないと、自分の趣味を全面に押し出したアイデアを提案したことがありました。「先生に似顔絵入りの陶器プレートを贈りましょう!」という案を出し、強く推してきました。「今どき、結婚式の引き出物にも似顔絵はないよ」と別の保護者が反対したのですが、「こんな個性的なアイデアは他にない!」と譲らない係の保護者。最終的に予算が折り合わず例年通りシンプルな花束に落ち着いたのですが、陶器プレート案を却下された本人はしばらく不機嫌でした。
▼30代・小学校卒業
謝恩会の会場で流すBGMを選ぶのに、懐メロ好きの保護者と現代の流行曲を推す保護者で大論争が起こったことがありました。「先生方の世代に合わせて70年代のヒット曲を流すべき」と主張する保護者と、「児童が楽しむ場だから最新の流行曲を」と主張する保護者が真っ向から対立。最終的には「子どもたちが小学校時代に流行った曲」という案にまとまりましたが、リストに入れた一曲で「私この曲だけはどうしてもイヤ!」と主張する保護者がいました。