廃校になった母校を5000万円で購入し、2年かけて「みんなの秘密基地」へ再生させる過程を紹介した動画がThreadsに投稿され、大きな話題を呼んでいます。
投稿主は、7つの会社や団体を創業し、経営者のためのコミュニティを運営する、中原功寛(@katsu.nakahara)さん。2017年に143年の歴史に幕を下ろした旧千田小学校(熊本県山鹿市)の敷地と校舎を購入し、コワーキングスペースや宿泊施設などを兼ねた複合施設「YAMAGA BASE」へと生まれ変わらせました。
廃校になった母校が気になって…
中原さんが母校の廃校を知ったのは2017年、ハーバード大学にMBA留学中のことでした。その時から気になっていたそうで、帰国すると2021年10月に17年ぶりに熊本県へUターン移住。その後、東京で創業した会社の登記場所を検討していたときにふと母校が頭に浮かび、「使わせてもらえないでしょうか?」と軽い気持ちで市に問い合わせたといいます。
市の担当者から返ってきたのは「原則は売却」という言葉。そこで「購入」という選択肢が浮上し、「もったいない」という思いから覚悟を決めたそうです。購入したい旨を市に伝え、1年半以上かけて準備と調整を積み重ね、2023年7月についに契約が成立しました。校門や校舎の鍵を受け取った瞬間について、中原さんはこう語ります。
「このとき、施設オープンを2024年4月に予定していたんです。なので、感慨深いというより『ようやくスタートラインに立てた』という気持ちでした。同時に、『時間がない。前へ進まなきゃ』と強く思ったのを覚えています」
尽きることのない小学校での思い出
中原さんが千田小学校へ入学した1993年当時、1学年1クラスで、登校班も給食班も1〜6年生までが一緒の“家族みたいに仲が良い”小学校だったそう。実際に校舎内を探索した際は、「卒業制作、シンガポール旅行の記念品、教室の机や椅子、理科室の実験器具、音楽室の楽器…目に映るものが全て懐かしかった」と話します。校舎内に残されていた物品については、使えないものは処分しつつも、活用できるもの、残して置けるものは今も大切にしています。
「私たちが通っていた小学校は、自主性をとても大切にしてくれる校風でした。たとえば優勝者が時間割を好きに決められる特典を得られるイベントや、自分たちで出し物を企画する『ミニミニ文化祭』といった授業などがありました。また、クラブ活動で木の実を採って食べたり、友達とコントを披露して盛大に滑ったり…といった思い出もあります」と中原さん。「特に印象深いのは町が行っている事業の一環で、町内にある3つの小学校の6年生の生徒がシンガポールに連れて行ってもらえたことです。田舎の小学校だったので誰もパスポートを持っておらず、カメラマンが教室に来てパスポート用の写真を撮り、クラスメートと申請書を一緒に書きました。このシンガポールへの初海外旅行が、高校卒業後の海外留学を決めるきっかけにもなりました」と懐かしい思い出を語ります。
誰もが楽しめる「みんなの秘密基地」
こうして誕生した「YAMAGA BASE」は、「iReaction」をテーマに掲げた複合施設。
これは、innovation(MBA研修、起業・企業支援コミュニティ運営)、Recreation(地元酒造連携イベント、農業イベントなど)、education(中高生向け職業体験、MITのSTEAMワークショップなど)、association(特定地域づくり事業協同組合の設立)、communication(地元アートイベント、ボランティアによる校舎メンテナンス)の5つを内包した造語なのだとか。
「仕事から遊びまで老若男女が楽しめる、ある意味めっちゃカオスな、みんなの“秘密基地”に…と考えています」
中原さんが始めた取り組みに、同級生や地域住民から応援の声が届いているそうです。
「事前に区長さんから地域住民への説明がありましたが、反対の声もなく『ありがとう』『応援してる』など、とても温かい言葉を多くいただきました。クラウドファンディングも実施しましたが、同級生や地元の方含めたくさんの方にご支援・メッセージを頂きました」