日本周辺で操業→中国で陸揚げすれば「中国産」 水産物禁輸から1カ月…露呈する矛盾、習政権の立場いっそう厳しく

治安 太郎 治安 太郎

福島第一原発の処理水放出に伴い、中国が日本産水産物の輸入を全面的に停止してから24日で1カ月となった。中国の税関当局が今月新たに公表した貿易統計によると、日本産水産物の輸入総額が前年同期比で70%あまり減少し、7月の輸入総額も前年同期比33%減少したという。

中国は岸田政権が放出を決定して以降、輸入規制を拡大する傾向にあったが、8月下旬に放出が開始されたことでそれに拍車が掛かった。影響は今後も続くとみられ、秋や冬にかけての貿易統計はもっと深刻な数字となろう。

一方、全面輸入停止から1カ月が経ち、習政権とその立場はいっそう厳しくなっている。まず、全面輸入停止への賛同は極めて限定的で、習政権が最初に想定していたほど各国から支持が集まっていない。支持しているのはロシアや北朝鮮だが、両国の思惑は政治的なもので参考にはならない。また、9月下旬、国連総会の一般討論演説ではソロモン諸島が処理水放出で日本を非難したが、同国は長年中国から多額の経済支援を受けており、国連の場で堂々と中国のご機嫌を取ったに過ぎない。カンボジアは中国への経済依存度が高いが、処理水放出は問題ないと中国とは立場の違いを鮮明にした。

習政権は当初、もっと各国から支持が集まると想定したはずだが、これは返って中国の政治的立場を危うくしている。だが、習政権も全面輸入停止という強い対抗措置を仕掛けた以上、解除することはなかなかできない。今回の全面輸入停止の目的が、中国国内で膨れ上がる反政府感情をガス抜きさせ、その矛先を日本へ向けさせることだったので、今解除すれば習政権は弱腰だと国民の不満がさらに膨れ上がるだけでなく、対外的には習政権の脆弱さを露呈することになる。

そして、日本産水産物の全面輸入停止という行為自体へも疑念が向けられる。1つに、中国へ水産物を輸出してきた日本企業、水産業界の間では、中国への過度な依存から脱却するべく、これから経済発展や中間層の増加が見込まれるインドやASEANなどにシフトしようとする動きが広がっている。グローバルサウスの国々でも日本産水産物は非常に人気が高く、今後需要が拡大することが期待される。また、日本国内でも自国産海産物を食べようと、官民一体となった政策が進められている。こういった動きがさらに進めば、中国による全面輸入停止の効果は薄まる一方だ。

そして、日本産水産物の全面輸入停止で最大の矛盾点は、日本周辺の海域で漁獲され、日本の港に陸揚げされたものが日本産である一方、日本周辺の海域でも中国漁船によって漁獲され、中国の港に陸揚げされれば、要は「中国産」となり、輸入規制の対象外となることにある。処理水の海域への放出によって輸入を規制したものの、その対象海域で中国は遠洋漁業を行っているのだ。

日本産水産物の全面輸入停止というものは、辻褄が合う対抗措置とは言い難い。1カ月が経過し、以上のような状況からすれば、習政権の決定は自らの首を自分で絞める結果となっている。

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