9月に入り、ロシアの同盟国でウクライナとも国境を接するベラルーシで、日本人が拘束されていることが分かった。在ベラルーシ日本大使館やベラルーシ当局の情報によると、拘束された男性は50代で7月に拘束され、ベラルーシとウクライナの国境付近で軍事施設などを撮影していたほか、ベラルーシ国内で中国の一帯一路に関する情報を収集していたことで拘束されたという。その後、ベラルーシ国営メディアは日本のスパイが国内で拘束されたと大々的に伝え、男性が軍事施設などを撮影したり、駅などで実況見分に立ち会っている様子などを公開した。日本大使館側の担当者が男性に面会しており、幸いにも健康に問題がないとされるが、今回1つの点が気がかりとなる。
外国人が滞在国の軍事施設などで怪しい行動を取れば、現地当局に拘束される可能性は十分想定される。しかし、今回注目すべきは、ベラルーシ当局が中国の一帯一路に関する情報を収集していたことを拘束原因に挙げたことだ。ウクライナ侵攻や台湾有事、ロシアと北朝鮮の軍事的接近により、世界はますます分断が深まっている。このような国際情勢の中で、今回のケースからは、ベラルーシが自らを欧米主導の民主主義陣営とは一線を画し、それと対立する中露陣営の一国と位置付け、日本をその民主主義陣営の一派と強く捉えていることが考えられる。ベラルーシ当局には、自らの陣営の親玉である中国に関する情報を対立陣営に属する日本のスパイが収集し、ベラルーシ軍の重要情報が日本だけでなく、米国や西欧諸国にも流出するという危機感があったのかも知れない。
そして、実際にベラルーシはロシアだけでなく、中国との間でも関係強化を進めている。例えば、中国人民解放軍は7月、NATO加盟国のポーランドと国境を接するベラルーシ西部のブレスト市でベラルーシ軍と合同軍事演習を行った。両軍は人質救出作戦や実弾射撃演習などを合同で実施したが、この期間に米国ではNATOの首脳会合が行われており、中国には米中対立を”グローバルな米中対立”と拡大解釈し、激しくなる陣営対立にも屈しないという姿勢で欧米を牽制する狙いがあったと考えられる。
ベラルーシで日本人が中国情報を収集したとして拘束されたケースからは、今後は日本と対立陣営に属する国々でも同様のケースが増加することが懸念される。同じようなケースが中国やロシアで発生する恐れは想像に難くなく、グローバルな陣営化対立が進む今後においては、ラオスやミャンマー、カンボジアなど中国との関係を重視する国々、近年軍事クーデターが発生し、その軍事政権がロシアとの関係を重視するマリやブルキナファソ、ニジェールなどでも同じようなリスクを考える必要がある。実際、ラオスでは昨年7月、中国の元人権派弁護士が現地の警察に拘束されている。この状況について、我々は陣営対立というもっと広い視野で捉える必要がある。