将棋駒の生産量日本一を誇る山形県天童市で毎年開催される「人間将棋」。1956(昭和31)年に始まり、69回の歴史を重ねた天童桜まつりのメーンイベントである人間将棋が、4月13・14日に行われた。今年も全国各地から将棋ファンが会場である舞鶴山山頂に集結した。
人間将棋では、甲冑や着物を身に纏い、帯刀した武者の出で立ちの人間が、将棋の駒に扮する。この「駒武者」が一般公募だということは意外に知られていない。
初日の女流戦では地元の高校生が駒武者役を務めるが、2日目に行われる男性棋士の対局は一般公募だ。
私、喜多桐スズメも5年ほど前に一般公募だと知った。「よし、駒になろう!」と心に誓ったものの、その直後はコロナで2年間中止。2022年は藤井聡太8冠(当時5冠)が来ると早々に発表があるも、予定が立たずに断念。2023年は応募して落選。そして今年、やっと歩兵役(女性限定)に当選することができた。
しかも、今年は日本将棋連盟が創立100周年を迎えた記念に、多くのプロ棋士とともに、解説者として谷川浩司17世名人を送り込んできた。天童の湯も私も大沸騰だ。
初日の女流戦で谷川浩司17世名人は、兵庫県姫路市、岐阜県関ケ原町の人間将棋も、伝統ある天童人間将棋を参考にして行われていると解説されていた。その伝統ある69回人間将棋の駒に、私は当選したのだ。
集結!様々な背景を持つ駒武者たち
人間将棋の当日、天童市総合福祉センターに、リハーサル・着替えのため朝8時集合。本日、駒になるのはどんな方々なんだろうと、そばに来た人に次々と話かける。
「父がアマ4段」というガチな人から「駒の動かし方も知らないけど座ってれば動かしてくれるでしょ」と歩兵なのに発言が王将の貫禄の人まで様々だ。参加できるのは16才以上で、幅広い年代の方々が集合している。しかも静岡、大阪、神戸、東京、神奈川、日本各地から集まって来ており、地元の人はわずかだ。
「公募とはいえ、駒武者になるのは地元の方がほとんどだと思っていたので、ホテル取って遠方からわざわざやってくるなんて、自分だけかと思って不安だった」と、話す人の言葉にうんうんと頷く私。私もそう思ってて少々不安だったのだ。
応募した人の多くが、夫と二人で応募して夫がハズレたとか、一番行きたかった友人が落選してさほどでもない自分が当たったとか、夫婦、家族、友人での応募だ。何度も応募してハズレが続いた男性は、もう一生無理かなと思っていたら、駒の種類「玉」という当選の連絡をもらい「たま」ってなんだ?えっ、まさかの「ぎょく」王将!と動揺した後に感激して叫んだという。
気になる当選倍率は…実行委員会に聞いてみると
ちなみに「駒武者の当選倍率」ってどのぐらいなのだろう? 気になり、天童桜まつり実行委員会事務局の堀さんに話を聞いてみた。
堀:「武者44人(忍者4人含む)に対して、今年は270人以上なので6倍ぐらいです。2022年の藤井聡太8冠のときは、700人以上の応募があり、15~16倍でした」
喜多桐:「最近知ったという人も多いのに、すごい倍率ですね!」
堀:「家族3人で毎年応募して1年ごとに一人づつ当選。3年掛って全員が駒武者になったケースもありますよ」
喜多桐:「遠方から来られている方も多いですが、毎回なんでしょうか?」
堀:「今年は、滋賀県や三重県からも参加されていましたね。過去には沖縄県から参加された人もいましたよ」
喜多桐:「沖縄!遠い!」
観る将から旅将へ、将棋が紡ぐ新たな物語
藤井聡太8冠人気で将棋を観て楽しむ「観る将」人口が増え、昨年の流行語大賞トップ10に選ばれた。将棋の普及活動に尽力する、羽生善治・日本将棋連盟会長は「観る将」の発展形で、旅のツールとして将棋が入っている「旅将」の普及を期待しているという。
「将棋は指せないけど人間将棋が観たかった」とか「ルールは知らないけど人間将棋は気になっていて、駒役をやってみたかった」と、天童で出会った「旅将」たちが楽しそうに語っていた。
人間将棋がたくさんの人々を「旅」に誘い出す。湯のまち天童、あなたの旅に王手、だ。