日産サクラ大ヒット! 軽EV市場が右肩上がり成長でクルマ選びが変わる予感

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 電気自動車(BEV バッテリーEV)がいまひとつ売れていない日本で、2022年夏に発売された日産サクラがいま「一人勝ち」と言われるほど好調といいます。魅力はいったいどこにあるのでしょうか。

大ヒットしている日産サクラ

 日産サクラは軽自動車規格のBEVです。2022年6月の発売以降、1年間で5万台を突破。国内のBEV販売は2021年度2.5万台でしたが、2022年度は7.9万台と一気に3倍以上になりました。そのうち約4割を日産サクラが占めているというのですから、これは大ヒットと言っていいでしょう。

 筆者はよく言われる「EVシフト」というのには少し懐疑的ですが、軽自動車カテゴリーのEVがよく売れるということはとても納得できます。

 軽自動車という枠は、全長 3400 mm以下、全幅 1480 mm 以下、全高 2000 mm以下、排気量660 cc以下、定員 4名以下、貨物積載量 350 kg以下で、それ以外にあと64馬力以下という自主規制があります。

 例えば電動の原付一種のモーターは定格出力0.6kw以下、原付二種は1kw以下という枠がありますが、電動の軽自動車にはそれはありません。法律の上ではいくら大きなモーターを積んでも合法と考えられますが、それでは軽自動車というカテゴリーの意味がグダグダになりそうです。なので、日産サクラも三菱eKクロスEVも、定格出力ではなく最大出力を軽自動車の自主規制に合わせて47kw(64馬力)にしているのでしょう。

 ただ、最大出力は64馬力ですが、これが2302回転から10455回転まで一定です。さらにトルクは0回転から2302回転まで195N・m(19.9kgm)もあります。つまりこのトルクを2302回転より上まで発生させると64馬力をオーバーしてしまうので、敢えてその先はトルクを落としているということですね。

 ガソリンエンジンの軽自動車はターボ付きでも10kgmちょっとです。19.9kgmというと、データ上はマツダCX-3のスカイアクティブG20(2000cc)と同じ数字です。アクセルを踏んで走り出した瞬間から、150馬力のエンジンが気持ちよく回ってる状態と同じだけのトルクを発揮してしまうんですね。

 1070kgと、軽自動車としては軽くない車体ですが、これだけのトルクがあれば出足の加速は充分速いでしょう。

実際に試乗してみました

 いろいろ考えてるだけではよくわからないので、とりあえず試乗させていただきました。

 目の前の日産サクラは、ごく普通の軽自動車のたたずまいです。車内は広く、特に後部座席は(トランクスペーストとトレードオフですが)前後にスライドできて、普通に快適な広さがあります。メーターは全てモニターで、ナビを含めてとても見やすく表示されます。

 スイッチをオンにして走り出します。当然エンジンの音はしません。クリープ現象もないので、ちょっと戸惑いますが、動き出せばその違和感は全くなくなります。

 これまでに乗ったことのあるEVというと、テスラの初期モデルやポルシェのタイカン、トミーカイラZZといった尖ったやつばかりでした。踏むととてもこわい加速をします。

 でもこの日産サクラはそういう困った乗り物とは違って、実に優雅に余裕の加速をしてくれます。無音のまま、乗り心地も良く、充分に速くて快適です。これは文句の付けようがありません。さらにe-Pedal Stepのスイッチを入れると、回生ブレーキが積極的に掛かって、アクセルのオンオフだけで加速も減速もコントロールができます。停止以外ブレーキペダルに触れることがないので、慣れるとこれはすごく楽だと思います。またこのモードの時にはクリープもします。

 内装もチープな感じはなく、軽自動車に乗ってる感じがあまりしません。それでいて実際の車幅は軽自動車なので取り回しは楽々、様々な先進の運転アシスト機能も装備されていて、これは良く出来ていると感じました。

ニーズにすっぽりとはまっている?

 日産サクラのバッテリーの容量は20kwhで、フル充電で180kmの航続距離となっています。ただしEVのバッテリーは実際の容量は必ずしもカタログ通りではなく、また電費も道路状況や冷暖房の使用に左右され、航続距離は実際には短くなりがちなので、安心して出かけられるのは片道50kmくらいと見ておいたほうが良さそうです。

 ちょっと心許ないと感じるかも知れませんが、この容量はもしかすると絶妙なのではと筆者は思います。例えば一戸建て、もしくは集合住宅でも自宅駐車場に一般的な3kwhの充電器があれば、充電ロスを見込んでも約8時間で満充電になる容量です。それで日々の買い物や送り迎え、そう遠くない職場への通勤がカバーできると考えれば、20kwhはとても現実的です。

 仮にクルマの容量が80kwh有ったとしても、例えば高速道路のPA等に設置されている50kwh級の急速充電器で30分(充電器の渋滞を避けるため30分に規制されていることが多い)で入るのは20kwhちょいですから、一旦出先で充電となると現状の充電インフラでは大容量が無駄になってしまいます。また、急速充電の費用は割高で、常用するとリッター20kmのガソリン車とランニングコストがさほど変わらなくなってしまうという現状もあります。

 車両価格を抑える上でも、実際のニーズを満たす上でも、このパッケージングが正解だったのではないでしょうか。

 

 ガソリンエンジンに比べてEVは価格が割高ですが、国や自治体の補助金を受けられればかなり手頃になってきました。自宅で充電できる、遠出に使わない、そんな条件で使う分にはEV軽自動車はベストチョイスかも知れません。

 2024年には各社から様々なニューモデルがデビューしそうですので、要チェックですね。

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