身障者や高齢者に優しい“車いすで入れる銭湯”の「番台猫」 大病を患った女将を見守り、入浴客の心もポカポカに

うちの福招きねこ〜西日本編〜

西松 宏 西松 宏

病名は末期の肝不全でした。肝臓移植をしなければ助からないところまで悪化していました。次男がドナーとなり肝臓の一部を提供してくれて、手術は成功しました。入院していた半年間はスタッフたちが銭湯の運営、夫や福ちゃんの世話を交代でしてくれました。病院のベッドでは、スタッフが撮って送ってくれた福ちゃんの動画を見るたびに「夫や福ちゃんを残して死ぬわけにはいかへん。頑張ろう」と何度も励まされました。ビデオ通話で私が「福ちゃん」と話しかけたとき、私を探す素振りをするのがとても愛おしかったです。

術後2年弱が経過したいま、体は順調に回復しています。日々支えてくれるスタッフやいつもそばで元気づけてくれている福ちゃんには感謝しかありません。福ちゃんは毎夕、番台横のケージの中で「番台猫」を務め、お客さんと触れ合っています。毎回爪を切ってくれる方、猫じゃらしで遊んでくれる方、おやつを持ってきてくれる方など猫好きさんも多いです。「今日もいいお風呂やった」「福ちゃんに会えてよかった。また明日ね」と言ってくれるのがとても嬉しいです。

銭湯といえばふつうは富士山の絵でしょ。でもうちは、百獣の王ライオンと捕食される側の白ヤギが仲良く寄り添い、その周りに象、鳥、亀などの動物が水辺でたたずんでいる絵が浴場に飾ってあるんです。64年前にここを開業した先代のお父ちゃん(義父)が、この絵を好んで掲げました。もう他界してしまったので、なぜこの絵を飾ったのか聞けないけれど、日々いろんなお客さんを見ていたら、その理由が私なりにわかったんです。

お客さんには、警察官、機動隊、消防団員、企業の偉いさん、学校の先生など、いろんな職業の方々がいて、時には利害の相反する人たちが一緒のときもある。だけど、ひとたび裸になってお風呂に入れば、仲良く和やかな雰囲気に満ちているんです。その様子が絵の動物たちとそっくりなんですよね。きっとお父ちゃんは、ここをそういう銭湯にしたいと思ってたんやなあって。
 
職業とか肩書きとか年齢とか障害のあるなしとか、分け隔てなく誰でもみんな平等に、毎晩、通い慣れたお風呂に気軽につかりにきて、気の合う者同士気兼ねなく語りあい、福ちゃんとも触れ合って1日の疲れを癒してもらえたらいいな。そうやって心も体もポカポカになれば、きっと明日もまた頑張れるはず。これからもそんな銭湯でありたいと思っています。

【施設名】「大津湯」
【住所】滋賀県大津市大門通16-55
【インスタグラム】@otuyu_siga

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